春に触れる。

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「岸先生、なんで給食に出るのは豆乳じゃなくて牛乳なん?牛乳ばっか飲んでて豆乳飲まんから岸先生もおっぱい小さいんちゃん。豆乳にはいくにゅー効果あるねんで」牛乳係になった私は先生の机に牛乳を置くついでにそう聞いた。 「うーん、たしかになんで牛乳なんやろうな」 今日の3時間目に行われた漢字小テストの丸つけをしながら先生は目も合わせずにそう答えた。 小5になってから私の成績は急に悪くなった。 2月にもなると中学受験を考えている子らは塾に行き始めた。 やから私の順位はどんどん下がるし、テスト返しほんまに憂鬱やわ。 1班から順番に時計回りに牛乳を配るから私は岸先生の机をあとにして1班に向かうことにした。 給食は4人1班になって食べる。1人で食べる子がいないように。って岸先生は言うてたけどなんかそれが凄い悲しかったの覚えてる。 1人でいるのはダメなこと。って言われてる気がして胸が痛かってん。 幸せっていうのは辞書にある言葉みたいに1つの単語にみんなが共通認識を持ってるもんじゃなくて、一人一人ちゃうもんやと思うから、やから、1人でもわたしは全然へっちゃらやねんけどな。 けどそんなこと言うたら「偉そうなこと言うな」って言われそうやから思っとくだけにしとく。 机の上に並べられた牛乳瓶はどれも同じ身長でこの中に豆乳が1本あったら目立つんやろうな。って、そんなこと考えてたら竹宮に声を掛けられた。 「なんでまだ配りおわってないねん」竹宮の視線は私の瞳を真っ直ぐ射抜いていて、それはこの人が強い人な証である気がした。 竹宮翔太はクラスでもおちゃらけキャラでみんなから人気があった。 私はそんな彼のことを好きじゃなかった。 なんでみんな竹宮のこと好きなんやろ。 「岸先生に豆乳について喋っててん」 「喋ってた?ずっと見てたけど岸先生にさえダルそうにされてたやん」 竹宮の言うことはいつも正しいねん、やからクラスのみんながどっと声を上げて笑うねん。 そうなったらわたしも頑張って笑わないと、だって1人はダメやからさ。 「みんな口動かさずに手を動かしなさい、ほらもう50分。給食食べる時間15分しか残ってないよ」その一言でクラスの雰囲気は糸を張ったようにピンっとなった。 声色から分かるに今、岸先生はめっちゃイライラしている。 クラスの平均点が悪かったんかな? それとも生理ってやつやろか??
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