春に触れる。

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私の話が終わるまでシュンは一言も話さんかった。やからと言って相槌を打ったり、うんうん、と首を縦に振るわけでもなく、聞いてるか聞いてないんかようわからん感じやった。 まぁこんなおもんない話そら興味無いよな、おばあちゃんが倒れたことは私にとっては非日常やけど、誰かにとっての非日常なんて世界にとっては日常で赤の他人からしたらドラマとドラマの間のCMみたいなもんやもんな。 「500円は少ないやろ。昼飯もまだやろ」 シュンの感想はそれだけやった。 「でも、小銭いっぱい貰ってもチャリンチャリン音鳴ってうるさいだけやし、なによりじいちゃんから初めて貰ったお小遣いやからなんも食べずにずっともっとかな思ってる」 「大人って?」 「音、鳴って」 シュンの聞き間違いが少しおかしくて私はちょっと笑った。 そしたらお前のイントネーションが悪いんや。ってシュンはムスッとしたけど、それがまた面白くて次は声に出して笑ってもうたわ。 世界に作られた箱庭みたいなこの部屋に私の笑い声が反響して、それをシュンが吸い込んでくれている気がした。 つまり、久しぶりに幸せやったわ。 そんな私に対して「ふんっ」とわざと声に出して不機嫌になったシュンは立ち上がって冷蔵庫の中からガリガリ君を2本持ってきた。 「どっちがいい」 ソーダ味とコーラ味。 わたしは30秒くらい悩んだ。 シュンに「遅いねん、はよ選べや」って5回くらい言われたわ。けどアイスなんてめっちゃ久しぶりやしほんまに食べたい方を選びたかってん。 結局は「先にシュン選んで」って言うた。 なんか悩めば悩むほど分からんくなってん。 多分どっちを選んでも美味しく食べれるし、どっちを選んでも「あっちにすればよかった」ってなる。 そういうもんやん。 シュンは私にソーダ味を差し出して、コーラ味の袋を破った。 なんでか私は上手に袋を開けられへんくてちょっと手こずってた。そしたら「ん」ってシュンがコーラ味を渡してきて、「ちょっと持っとけ、開けたるわ」言うて開けてくれた。 それから、「それ1口あげる」言うてくれた。 「ありがとう」言うてからかじると前歯が少し染みてそれから頭がキーンってなって、そのあと幸せに包まれた。 ペットボトルのコーラとは違う、ちょっと薬っぽくて人工的なそのコーラ味はなんでか凄い優しくて心をキリキリと刺激してきた。 その後シュンが渡してくれた私のソーダ味を食べてんけどやっぱりコーラ味にすればよかった。って思った。 コーラ味の方が美味しかったからな。 けどそれってシュンから貰ったからなんかもしれん。 とにかく、タバコより美味しかった あ、それから 「わたしのも1口あげる」 言うてあげてんけど、シュンは1口食べてから 「おれやっぱりソーダ味きらい」と顔をしかめた。 私はさっきの30秒間を宝物のように感じた。 冬のアイスは美味しかった
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