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真っ赤な空。
オレンジの太陽に照らされた私とシュンの影は信じられへんくらい黒かった。
シュンの方が私より10センチくらい身長高いからその分影も長細くて、突き当たりを曲がったりする時、シュンの影だけが向かいの壁に写ったりした。
「カラスや」
「あそこの喫茶店美味いで」
「あのおばはんめっちゃ私のおばあちゃんに似てるわ」
「あそこの本屋の店主まじうっとうしいで」
「明日も晴れそうやな」
わたしらはたわいのない会話で、でも、それは互いの世界を確かめ合う大切な確認みたいやった。とにかく、行くあてもなくただ街をブラブラしてた。
そしたらたまたまなんか、(もしかしたらシュンがそっち方面に歩いてたんかも)目の前にタバコ屋が出てきてん。
ほら、前にしゅんが言うてた駅前の。
シュンは立ち止まって私の前にたってじっと顔を瞳を見てきた。
シュンの瞳は真っ黒でどこまでも続いていく感じがして、思わずそれに引き込まれそうになった。
私はそれが誰かの瞳に似ている気がしてんけど、それが誰やったんかは分からへんかったわ。
映画の登場人物とかやったんかな。
とにかくその瞳は口なんかの何倍もよく喋った。
電柱の後ろに隠れているシュンに目配せしてから私は1人でもう一度そのタバコ屋に戻った。
それは犯罪というよりもシュンを知る行為やと思った。
やからその時は恐怖心も罪悪感も感じひんかってん。
その店はドライブスルーする時に商品を受け取るような、小さな窓口があってそこから中が見えた。
シュンが言ってた通りタバコ屋のおばちゃんはしっかりとイビキかいて寝てたわ。
窓から伸びるカウンターには飴ちゃんみたいにカラフルな色のパッケージを持つタバコがいっぱい並んでて、確かにこれはよくパクられるやろうな。って納得した。
心臓の音がうるさすぎて、おばちゃんを起こすかもって心配してんけどその音は私の中だけで育ってたみたい。
おばちゃんのいびきは変わらず一定のリズムで店内にひびいとった。
「電車が来たら踏切の音で起きるかもしれん」シュンにそう警告されてたから悩む時間なんて私にはなかった。
1番手前にあった緑色のタバコを手に取るとわたしは地面を蹴った。
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