春に触れる。

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月曜日の朝、いつも通りホームルームの5分前に教室に入ると教室の真ん中にみんなが集まっていた。 その中心にいるのは見たことがない長身の男やった。 「誰やろ」私はその輪に入る気にならんかったから疑問には思ったもののそのまま廊下側の1番後ろの私の席についた。 すると、一際声のでかい山川凛太郎が私の方を向いて 「あいつ可愛ええやろ、このクラスで1番可愛ええ女子やで」って言うてきた。 ニヤニヤしてるその顔はホンマにムカついたけど、そんなんに反応するほど私はアホちゃうからランドセルを開けていつも通り机の中へと教科書を移した。 「たしかに可愛ええ子やな」 長身のその男もアホそうな声でそう言うてたわ。 そんなこと言うたら、ほら、みんな笑うやん。 その輪には入ってないないのに、その輪の中心になってる私は居心地悪くて、トイレ行ったわ。 逃げたんちゃうで、ただ、おしっこしたかってん。 トイレの個室にこもって鼻かんでたらチャイムが聞こえて私は駆け足で教室に戻った。 「ケイゴ遅いよ」 岸先生に注意されて朝から嫌な気持ちになったわ。 教壇では岸先生と例の長身の男が並んでる。 黒板にはあんまり綺麗じゃない字で 板垣祐介 って書かれた。 それは男の名前やった。 「今日から1週間、教育実習でうちのクラスに来てくれる祐介先生です」 パチパチパチと拍手が教室の中に響いて、祐介先生は嬉しそうやった。 「はじめまして、板垣祐介って言います。1週間と短いですがよろしくお願いします」ハキハキと話す祐介先生はすごい真面目そうで、平凡そうやった。 「じゃあ質問ある人」そう岸先生が訪ねると、数本の手が天井に向かってピンッと伸びた。 「じゃあ香川さん」 当てられた女は、ハイって立ち上がって 「彼女はいますか」って聞いた。 なんや、そのしょうもない質問。 「彼女はいません」祐介先生がそう言うと数人の女子から、おぉー、と歓声が上がった。 たしかに祐介先生の顔はすごい整ってたから彼女がいても不思議ではないやろ。 「じゃあこの一週間で作れるかもな」 竹宮がそう言うとクラス中がどっと笑った。 何がおもろいか分からんかった私はその1部にはなれんかった。 次に当たったのは、久保田やった。 久保田は野球部の坊主でよく友達からその頭を撫でられてる。 もちろん、私は撫でたことないで。気色悪いもん。 「なんでこの時期なんですか」 久保田にしては珍しく真面目な質問やな。思った。 たしかに2月の終わり、もう春休みやのになんで今来たんやろ。 「本当はもっと早く来る予定だったんだけどコロナの影響で来れなくてね、この時期になってん」 コロナってホンマに色んなとこに影響与えてるねんなって思った。 質問タイムが終わると岸先生が 「では、今日から1週間みんなで素敵な思い出作ろうね。給食の時間は是非祐介先生を班に誘ってあげてね」 「一緒に食べような」祐介先生もそう言った。 そして、それから岸先生は取って付けたようにこう言った。 「男子23人、女子17人、私と祐介先生で5年2組です」 その時、岸先生は明らか私の方見てて、 もちろん男子の中に私も含まれてて、 私は悔しくなった。
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