春に触れる。

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放課後の教室は嘘のように静かやった。 昼間の喧騒さはどこに行ったんやろ。 あの賑やかさ全てが沈黙に吸われたと思うと、まるで絵の具の黒色にそっくりなそれがものすごく恐ろしくなる。 はぁ。 この世界にまだ私はおるねん!! そう気づかせるためにわざと大きいため息をついてみた。 誰に、何に、気づいて貰いたいのかは自分でも分からへんねんけどな。 別に学校にいる理由なんて特にないから普段はホームルームが終わったらすぐ帰るねんけど、今日は岸先生に「放課後教室に残ってて」って言われたから仕方なく先生の机を使って宿題してる。 普段は先生のイスに座ったら怒られるから、ちょっぴり嬉しい気持ちになるねん。 先生の椅子は回転できるやつで、私らのより全然豪華。 地面をタンっと蹴って何周かしてみた。 回る視界の中で私はおっぱいについて考えた。 男でも女でも髪は伸びる。 けどやっぱり男やとおっぱいは成長しやんのやろか。 自分で自分の胸を触ってみて 「ぺたんこや」と呟いてみた。 回転が止まった。 「ごめん、5分待ってて」そう言って私を教室に1人にした先生はかれこれ30分くらい帰ってこん。 別に家に帰ったところですることもないし、全然ええねんけどな。 今日の分の宿題が終わってちょうど江戸川乱歩の小説を開けた時、教室の前の扉が開いて岸先生が入ってきた。せっかく読書しようと思ったのに。 教室は廊下沿いに前と後ろで扉が2つあるねんけど放課後は後ろの扉は鍵がかかってんねん。
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