雨が降れば必ず

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 季節は梅雨に入り、じめじめとした空気が漂う日が続いていた。  大通りから少し外れた場所にある祖父の経営する喫茶店『カンヌ』でアルバイトをしている大学二年の西崎充は、今にも降りだしそうな雨に気を配りながら、何度も窓の向こうへと視線を向ける。  それでもなかなか降りださない雨に、気がつけば忙しくなってきた店内の接客に時間を忘れていると、ようやく落ち着きを取り戻した時には、店の窓が遠くからでもわかるほど霧がかったように曇っていた。  慌てて店の外に飛び出すと、立て掛けている看板をしまうために腕を伸ばして作業を始める。 ――タッ、タッ、タッ――  規則正しく聞こえてきた足音がふと止まり、作業していた手を止めて振り返ると、そこには同じ大学生くらいの男の人が雨で濡れた服を軽く払っていた。 「雨、降ってきましたね」 「そうですね。参ったな。傘持ってなくて……。少しだけ雨宿りさせて下さい」 「もちろんです。良かったら中に入ってもらっても大丈夫なので」 「あっ、どうも……」  ちょうど客足が途切れたこともあり、今は店に充しかいない。祖父は、少し離れた自宅へ祖母の様子を見に行っていた。  看板をたたみ、店の中へ戻るときに、もう一度その彼へ視線を向けると、とても鼻筋の通った綺麗な横顔をしていて、思わず見惚れてしまう。 ――そういえば――  店の奥に置き傘があったことを思い出し、慌てて看板を抱えて店の中へ戻ると、休憩室へと入り何本かある置き傘へ手を伸ばし、いくつか拡げてみる。  一番状態のいい紺色の傘を握りしめて、急いで店の外へ出ると、彼はまだそこにいた。 「あの……良かったらこれ、どうぞ」 「えっと……」 「お店にあった置き傘なんで、全然気にしないで大丈夫です」 「じゃあ、遠慮なく。ありがとう」  差し出した傘をそっと受け取った彼が優しく目尻を下げてお礼を言った表情がとても綺麗で、充の胸の奥がとくんと鳴った。
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