雨が降れば必ず

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 彼が店に現れるのは、決まって雨が降る日。  いつの間にか、充は空に向かって『雨よ、降れ』と願うようになっていた。  充は癖毛で雨が降ると髪がくるくるしてぱさぱさになるから苦手だけど、それでも彼に会いたいという思いの方が強くて、つい願ってしまう。  それなのに、願えば思うように雨が降ってくれないのが現実だったりするわけで――。  バイトに向かう道中で空を見上げると、太陽の眩しさに思わず舌打ちをしてしまう。 「また、会えないじゃん……」  って、俺――何考えてんだろ?  思わずついてでた言葉に、失笑してしまう。  めちゃくちゃ意識しまくってんじゃん――。かっこ悪っ――。  髪をくしゃくしゃしながら、どうしようもないこの感情に自分自身も戸惑いつつ、大学へと向かった。 「おはよう」 「お、おはよう」  講義を受けるための教室へ着くと、充の姿を見つけた立花龍生が声をかけてきた。迷わずにそちらに向かって歩いて行くと隣に腰を下ろし、その場に顔を伏せた。 「なに、悩み事?」 「なんで、こんなに晴れてんだよ……」 「はっ? 雨より良くない?」 「そりゃ、そうだけど……」 「それに、充って雨嫌いじゃなかったっけ?」 「あーっ、言われてみればそうだったかも……」  充は確かに雨が苦手だった――。昔、雨の日に思い切り走っていて自転車と衝突したことがあったからだ。俺はまだ年長組で、相手の男の人は大学生くらいのお兄さんだった。  曲がり角を飛び出した俺を避けようとして、その人は車と衝突してたくさん血を流して倒れていた。  俺は何が起きたのかわからないままに、腕を骨折しただけの軽い怪我ですんだけれど、そのお兄さんは救急車で運ばれて行った。 「雨、降らないかな……」 「そんなに降って欲しいなら、てるてる坊主でも作って逆さに吊るしてみたら?」 「てるてる坊主って、晴れて欲しいときに作るんじゃないの?」 「逆さにしたら、雨降るって言うじゃん?」 「へえ……」  龍生の豆知識を興味なさげな返事でやり過ごしたにも関わらず、学校が終わって店までの空いた時間で、スマホでぐぐってみた。  てるてる坊主を逆さにすることは、雨乞いという意味になるようで、有名な話らしい。疑っていたわけではないが、自分が晴れて欲しいときにしか作った記憶がなかったから、てるてる坊主を逆さにするなんて発想がなかった。  バイト中も何となくそわそわしていて、これはもう神頼みというか、てるてる坊主頼みに賭けてみようと心に決めて、祖父に「お疲れさま」と挨拶をしたその足で、店から家までの道のりを急ぐ。  そして、家に帰ると「ただいま」と玄関で叫ぶだけ叫んで、そのまま自室へと駆け上がった。  鞄を放り投げると洗面所で手洗いうがいをして再び部屋へ戻り、ティッシュBOXをテーブルの上に置いて何枚かシュッシュと抜き取ると、両手でくるくると丸くなるように掌で転がす。 「よし、こんなもんかな……」  丸めたティッシュを今度はぎゅっぎゅと潰れないように握りしめて固めていくと、最後にティッシュを二枚抜き取り丸めたティッシュをくるんで店から拝借してきた輪ゴムを首になるあたりにぐるぐると何度も巻きつけた。  机の筆記具立てに入れてあるマジックを取り出してキャップを外し、てるてる坊主に顔を書いてみる。  晴れて欲しいときに笑顔ということは、雨が降って欲しいなら泣き顔だと勝手に解釈して、悲しそうな表情を描く。 「よし、完成!」  出来上がったてるてる坊主を掲げながら、小学生ぶりに作った割にはなかなか上手く出来たと自画自賛しつつ、カーテンレールのところへ机の引き出しにしまってあった裁縫道具から取り出した太めの糸をつけて逆さに吊るした。 「雨が降りますように……」  小さくそう呟きながら――。
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