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なんであんな所に?
「あのさ......」
「なに?」
「いや......さっきも聞いたけれど、なんでお前、あんな場所にいたの?」
「如月 妃花(きさらぎ ひめか)」
「はっ?」
「私の名前。見知らぬおっさんに『お前』呼ばわりされるのはちょっと......ねぇ......」
「あぁ、それはごめん......じゃあ俺のことも『おっさん』じゃなくて、渡(わたり)って呼んでくれる?」
「わたりのおじさん?」
「うん、『おじさん』は要らないかな......」
「じゃあ、わたしのおじさん?」
「うん、それだと俺の名前が消えちゃうね......っていうか、たぶんわざとだよね、それ......?」
そう言いながら俺は、手元のウインカーを操作して、左のサイドミラーで後続の車が来ないことを確認する。
確認を終えたら、緩やかに左の車線に入る。
車線に入って、再びウインカーを操作して、ランプを消す。
そして速度はそのままの状態を保ちながら、そろそろ終わるであろう高速道路の切れ目に少しだけ集中しながら、再び彼女に話題を振る。
「っで......なんであんな、高速道路のど真ん中のサービスエリアに、如月さんの様な、制服を着たJKが居たんだい?」
そう尋ねられた彼女は、少しだけ笑いながら、声を小さく弾ませる。
「如月さんって......私けっこう年下だと思うけれどなぁ~普通に妃花でいいよぉー」
「あっそう......じゃあ妃花。なんであんな所に居たの?」
「うーん、修学旅行で置いて行かれたからかなぁ~」
「今思いっきり8月だけど?この時期の修学旅行は些かアグレッシブが過ぎるんじゃないかい?」
「じゃあ、臨海合宿っで置いて行かれたってことで良くない?」
「うわぁ、それならあり得そうだわ......ってか懐かしいな、その言葉......」
そう言いながら俺は、走っていた高速道路の切れ目を見つけて、そのまま一般道へと降りていく。
降りて行く時、さっきまでの速度を少しずつ緩めながら、少しだけ急なカーブを、集中しながら運転する。
そしてその道路を終えて、一般道へと出たところで、久しぶりに目にする信号機の赤色に車を停める。
そして停めながら、俺は再び彼女に問い掛ける。
「......でもさぁ、人が昼食を食べているテーブルに、いきなり五人の諭吉を召喚して、『これで行ける所まで行って欲しい』なんて台詞を言う女の子が、ただ『臨海合宿で置いて行かれたJK』なんてこと、本当にあると思うかい?」
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