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自己紹介
運転席から尋ねられた言葉の後に、私は何を返せばいいのかわからなくて、けれどそのおじさんの言葉の後に流れた、数秒の沈黙が車内の中に横たわる時、赤色の信号で止まっていた車は、青色に移り変わると同時にゆっくりと走り出して、徐々にスピードを上げていく。
とっくに高速道路は降りているこの車は、今は建物がほとんど無い様な田舎道を走っていて、後部座席に座る私の視線には、田んぼとか畑とか、そういう普段は触れないよな景色だけが流れている。
そんな風に流れる景色を見ながら、私は呟くように言う。
「べつに......いいんじゃないかな?そんな普通なJKが居ても......」
そう言いながら私は、さっきの高速道路の時と同じ様に、自分の携帯に視線を落とす。
そしてそんな私の言葉を聞いて、ついでにそんな私の仕草を、たぶんバックミラーで確認して、また一言、おじさんは言葉を紡ぐ。
「......それだと、答えになっていないだろ?」
「答える義理はないよ......」
「俺が乗せて運んでいるのに?」
「それは......ありがと......」
「どういたしまして」
そう言いながら静かに運転を続けるおじさんの仕草は、後ろの席からはあまりハッキリとは見えないけれど、でも何故だか少しだけ、懐かしさに似た何かを感じた......様な気がした。
いや......さっき会ったばかりのこの人にそんなことを感じるなんて、たぶん私も、どうかしているのだろう。
そうだ、だってそうじゃなかったら......
そんな風に思考を巡らせて、不意に自分の右隣を見ると、そこには沢山の段ボールが積まれていた。
一体何の段ボールなのかは知る由もないし、別に気になったわけではないけれど、それでもまぁ話の種にはなるだろうと思って、私は尋ねた。
「......それにしてもさ、おじさん」
「ん?」
「この段ボール達、どうするの?」
「どうするのって......届けるんだよ、これから......」
そう言いながらおじさんは、緩やかなカーブを曲がりながら、続けて自分のことを説明してくれた。
就職した会社を数年で辞めたこと......
それで今は夢も希望も特にはないこと......
だから友人が立ち上げた運送業を手伝っていること......
そしてそんな仕事をしながら、車中泊をして過ごしているということ.....
そんな自己紹介みたいなことをおじさんは話してくれた。
少し恥ずかしそうに、笑いながら。
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