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ラケットを振っても空振りばかり。籠からボールをぶちまける。選り抜きの10人の中に入れたというのに、そんなベタなしくじりを何度もしては顰蹙を買う。
澄み渡る空の水色、くっきり浮かぶ雲の真っ白。
――雨よ、降れよ……
オレは力無く願ったが、わかっていた。全く雨の気配はない。となれば、オレの計画した小さなサプライズは、不成功に終わる確率大。
オヤジを置いていくなよ。
そんな望みもむなしく、去年母さんが逝った。その後のオヤジ、扱いのメンドーなこと。
「雄也くん、雄也くん、見て見て!」
母さんのいないオレの誕生日。浮ついた声でオレよりはしゃぐオヤジ。が、ばあん、と鳴るはずのクラッカーがひもだけ抜ける。レンガ並みに固いスポンジの手作りケーキ。違和感しかないミッキーのかぶりもの。プレゼントは10年前にねだった指人形。
オレのために準備したサプライズは、イタくて間が抜けてて時代遅れで――それでも仕事が忙しくて母さんにオレを任せきりだった罪悪感を埋めようとする必死さが見て取れて。
オレは喜ぶしかなかった。フリでも嘘でも。
でもさ。オヤジはオレが喜ぼうと努力しているのを見抜いてる、というのがわかった。
その笑い方。「母さん、どうしたら雄也が本当に喜ぶかなあ」と、声が聞こえてきそうな戸惑いが透けて見えるのだ。つまり、オレが喜んだフリをしたのがわかっていて無理に満足げな顔をする。
オレこそ、そんなオヤジの無理を何とかしたい。というわけで、来たる父の日にある計画をした。
……ってのに何てこった。この特別合宿をすっかり忘れていたがために、それが頓挫しそうになっている。
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