内緒のあじさい

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中学の頃、こんな庭の隅じゃなく、玄関の横で母さんと一緒にプチトマトを育てていた。その実を摘んでいたときのこと。 前の道を女の子が通った。ランドセルが重そうで足取りも重たくて。泣いているのにそれをこらえようと必死で唇をかみしめながら。 オレは、とっさに条件反射した。 「これ、あげる」 駆け寄って、両手の中のキラキラと輝くトマトの実を差し出したんだ。 「いいの?」 一筋流れ落ちる涙。でも、大事そうにそのプチトマトをつまんで太陽に透かして見た瞳は、次の水滴が乾きそうなほどに光ったのだった。
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