内緒のあじさい

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約束は明日。 近所のコートも予約したし、ニューボールも用意した。ラケットも女子テニス部から初心者用のを借りてきた。 天気予報を何度も見るが、――微妙。 「ところどころで雨が降る時間帯もあるでしょう」 何だよ、その噛み切れないモツみたいな歯切れの悪さ。 雨よ、降るな。降るんじゃねえぞ。 オヤジが出窓に赤紫のあじさいの鉢をがっちり飾っては1分おきにながめている。それを渡したときの驚きっぷりも、その愛しそうで嬉しそうに見つめる顔も。うん、イタくない。 オレのサプライズは大成功だった――彼女のおかげで。 そのオヤジの横で1分おきに窓を開けては空を見上げるオレ。たぶん今、世界一せわしない父子だ。 ――今夜は眠れそうにない。初デート前夜ってこんなものか? (完)
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