5人が本棚に入れています
本棚に追加
君の名前を
生まれてから十八年。私は、恋というものをしたことがなかった。
何かを好きという感情がわからなかったし、アイドルやアニメキャラに夢中になる友人への理解も疎かったのだと思う。
「好きです。付き合ってください!」
私が蒼木夏芽先輩に告白したのは、ちょうど一年前の春のこと。
大学へ入学して、キャンパス内ですれ違ったとき。全身に電気が流れるような感覚に襲われて、気づいたら引き止めていた。
「えっと、ごめん。誰?」
「私、一年の梅野小春といいます。運命を感じたんです。お願いします!」
高らかな声が廊下に響き渡ったことを、今でも鮮明に覚えている。
当然のごとく、返事はノーだった。が、夏芽先輩は私にチャンスをくれた。よく知らない同士だから、まずはサークルに入ってみないかって。
付き合い始めるのに、それほど時間はいらなかった。
* * *
「今日は、『君の名前を』を見ようと思うんだけど、いい?」
「サンセーイ!」
「何回見ても、いい映画はいいよね〜」
私たち映画サークルは、放課後に映画を鑑賞するだけの活動をしている。
部室の壁に取り付けられたスクリーンの前で、八人がパラパラと座った。私が一番後ろの席へ行くと、夏芽先輩がとなりへ来る。
今日は近くなれた。そっと手を伸ばして、ひとつ空けた椅子の上で手を繋ぐ。あたたかい先輩の指と、いけないことをしている背徳感にドキドキした。
誰にも見られてはいけない。この映画サークルは、恋愛禁止という掟があるのだ。
最初のコメントを投稿しよう!