君の名前を

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「ああ……ごめん。俺、そうゆう記憶、まったくなくてさ」  気まずそうに、夏芽先輩が視線を下げた。  やってしまった。それと同時に、頭から岩石を投げつけられたような衝動に襲われる。 「ううん、いい。そんな能力、みんながあるわけないの、わかってるから」  顔に出さないようにしたつもり。  でも、目の奥から押し寄せる波には、逆らえなかった。 「……小春?」 「ごめんなさい。気にしないで」  口だけで笑って、レモンティーを飲み干す。  運命なんてものは、この世に存在しない。  あらためて、現実を突きつけられた気がした。  映画やSNSなんかで、たびたび運命の瞬間を目撃したことがある。  夢の中で見た人と実際に出会ったとか、前世で結婚を約束した人と結ばれたとか。  どれも奇跡的なことだと流し目で見ていたけど、心の奥では思っていた。いつか私も、もしかしたら……って。 『前世の記憶? それ、マジだったらすごいことだよ』  中学生のとき、初めて友達に話した。それまで、誰にも言ったことはなかった。言う理由がなかった、が正しいのかもしれない。  ぼんやりとしか顔は見えないけど、抱きしめてくれると優しい匂いがしていた。とても心地良くて、私は好きだった。 『生まれ変わったら、絶対また会おうって約束したんだ』 『それ、ほんとに現れたらエモいね。でも、顔も名前も違うだろうに、どうやって見つけるの?』 『うーん、直感?』 『うわぁ……、神頼みか』 『それを運命って言うんだよ』 『なるほど!』  お互いに会えば、すぐにわかる。姿形は変わっていても、脳が、細胞が覚えている。  それは、自分だけじゃないと、根拠のない自信があった。今思えば、とんでもない拗らせ女子だったなぁって。
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