ミルキーピンク

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ミルキーピンク

 桜色のネイルをほどこした指で、ミルキーピンクのリップを唇になぞる。  少し白っぽい発色は、一昔前に流行したようだけど、最近のトレンドカラーにもなっているらしい。 「その口紅、気に入ってるの? よくつけてるよね」  いつものカフェで、夏芽先輩がふと聞いた。レモンティーを飲み終えた口を拭いて、ちょうどメイクを直していたところ。 「……うん。ずっと、前からだよ。似合ってない?」 「そんなことないよ。ただ、綺麗な色だなって思っただけ。桜みたいで」  やっぱり、覚えていないんだ。  オシャレに気を使うようになってから、ずっと愛用しているディオールのリップ。これは、私が前世お気に入りだった口紅の色に似ている。  夏芽先輩……前世運命を約束した人から、もらった物と同じ色味なの。  思い出してくれるかもって、何度かアピールしてみたけど、無意味だった。  こんな難易度の高い記憶力ゲームを出すなんて、私はどうかしてる。勝手に期待して、勝手に落ち込まれても迷惑なだけだよね。  お会計を済ませて、車の助手席へ乗り込んだ。いらないと言われたけど、そうはいかないとスマホの上に千円札を置く。  夏芽先輩のことは好きだ。誰にでも優しくて、落ち着いているところとか。小春って、呼ぶ声もいい。  なのに、少し不安に思うのは、前世のことがあるからだろう。 「じゃあ、また明日」 「明日は講義ないんじゃなかったの?」 「サークルには顔出すよ。小春に会いたいし」 「うん、待ってる」  一人暮らしのアパートまで送ってもらい、別れた。振っていた手を下ろしながら、モヤモヤとした影が胸の奥から湧き出てくる。  触れる手、抱きしめられる肌もすべて、約束したあの人のはずなのに、どこか虚しくなる自分がいる。  一人だけ運命だと舞い上がって、ふとした拍子に孤独になる。  こんな気持ちになるなら、前世の記憶など消して、夏芽先輩だけを見ていたい。
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