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その人が再び口を開いたときには、抱きしめられていた。
ほのかに香る花の匂いに、瞼が下がっていく。
ああーー、この感じ、懐かしい。
「さくらちゃん、なのね」
ずっと、不思議だった。初めて来たはずの家に、見覚えがあったから。
彼岸世界に詳しかったこと。これまで姉の話をしなかったこと。さくらと私の前世の名を口にしたことも、全てが線で繋がった。
「母さん⁉︎ こは……る?」
驚いた表情の先輩が、そっと離れる私たちを交互に見る。この様子だと、先輩は知らなかったのだろう。
「なんで……、泣いてるの?」
ーー前世、私はこの家の長女・さくらとして生まれて、五年ほど暮らしていた。
不幸が起きて、その短い生涯を終えたのだけど、私は彼岸世界へ行き、再び人間になることを望んだ。
『さくらね、生まれ変わったらまたパパとママのところに産まれるんだ』
『早く会えるように……、頑張るから』
あれは、来世で永遠を約束した恋人ではなく、再会を待ち望む母と子の記憶だったんだ。
会えばすぐに分かる。姿形は変わっていても、脳が、細胞が覚えている。
ようやく、しっかりと思い出せた。
「いきなり、ごめんなさいね。一気に感情があふれちゃって、つい」
必死に首をふりながら、ずびんと鼻をすする。
「もう一度、会えて……、嬉しいです」
「あれから、頑張ったのね」
白味を帯びたピンクベージュの唇が、優しく微笑む。お揃いの色。使っていてくれたんだ。
頭をなでられて、胸の奥がギュッと苦しくなる。
さくらの記憶が、鮮やかに流れていく。まるで、忘れかけていた昔の映画を、久しぶりに見返したような。
やっと見つけたよと、五歳の彼女が、胸の奥でささやいている。
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