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「はあ!?」
そんな騒ぎがあった数日後。
私は教室で美波から話を聞いて、素っ頓狂な声を上げたのだった。
「ま、マジで?え、え、あの畑さんが!?」
「声が大きいってば、瑠香。……あたしもすげーって思ってるとこなんだから。まあ、職員室で先生たちが話してたんだし、あの様子なら確定事項でしょ」
「うわあ、人は見た目によらない……」
その内容は――あの畑敦子が、学校を退学することになりそうだ、ということ。理由は違法薬物に手を出していたからだと。
確かに、最近は若者でもネットを経由して簡単にドラッグが手に入ってしまう世の中である。何より、ここ最近の彼女の怒りっぽさは尋常ではなかった。ドラッグをやっているせいでおかしくなっていた、というのならわからないことでもないが。
「そのドラッグってやつ、若者に最近大流行してる……ALKって名前のお薬なんだってさ。見た目はこーんなかんじの、マーブルチョコみたいな黄色くて可愛い錠剤なんだって。つか、知らない人が見たらマーブルチョコに見えるって話ー」
「ALK……」
そういえば、テレビの警察特番で少し前に見たことがある。都会を中心に、反グレ組織が積極的にバラ撒いているとか。やせ薬だと言われて知らず知らずにジャンキーになってしまう人もいるのだとかなんとか。
――黄色い、錠剤……。
あ、と私は黒板の文字を思い出していた。
これからもよろしく、の言葉の周囲に散っていた黄色い水玉模様。そう、何も知らない人間には水玉にしか見えなかったが。
ひょっとしたら彼女にはあれが、ALKというドラッグのことを示しているように見えていたのではないか。そこに、これからもよろしく、のメッセージが合わさったとなると。
「ねえ美波。……畑さんが、どこでお薬を買ってたかわからないけど。ドラッグって普通、売人、って呼ばれる人から買ったり……通販で買ったりとか、そういうものだよね?」
「って、聴くけどね」
「で……び、ビジネスをする人ってさ。常連のお客さんに、“これからもよろしくお願いします”とか言ったりする、よね?今後ともご贔屓に、って意味で」
「まあ、そうだねえ」
段々と、見えてきた気がする。そもそもだ、私はあのメッセージが朝早く書かれたものだと思い込んでいたが――よくよく考えれば、前の日の放課後に書くことだって可能なのではなかろうか。人がいなくなった教室の黒板に、あのメッセージを書いておけば。次にそれを目にするのは――一番最初に登校してくるであろう、畑敦子になったはずだ。
あれが悪口の類なら、見回りにきた先生が消していったりもするかもしれない。けれど、一見するとあたりさわりのない、ポジティブな挨拶でしかない言葉。目に入ってもわざわざ消そうとは思わないのではないか。
「あれは、最初から……畑さん一人に向けたメッセージ、だった?」
私は茫然と呟くと。美波はあはは、と笑って言ったのだった。
「なんだやっと気づいたの」
臆病者だと言いたければ言え。何故あの時美波が笑っていたのか、教室の空気が露骨に明るくなったのか。私は怖くてそれ以上追求することができなかったのである。
確かに畑敦子はみんなに煙たがられていた。学校からいなくなってほしいと思っていた者も少なくなかったことだろう。そしてそんな者達が偶然彼女の弱みを知り、自分達の手を汚さずに排除できると知ったならどのような行動を取るか。
あれを書いたのが美波だったのか、それとも私以外のクラスメート全員だったのか。
どんな幽霊より怪談より――真実を知ることが何より、私は恐ろしかったのだ。
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