メッセージ、メッセージ。

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メッセージ、メッセージ。

 これは私が高校生だった頃の話。  自慢するつもりではないけれど、私は結構偏差値の高い学校に通っていた。県内でも有数の進学校だったと思う。中学時代、死ぬ気で勉強して受験に挑んだだけのことはあったのではなかろうか。少なくとも、高校に入ってから一般的な“不良”と呼ばれる人種にお目にかかったことはない。元々大人しい地域だったというのもあるのだろうが。  たくさん友達にも恵まれたし、高校で入った漫画研究同好会も楽しくて充実していた。  唯一難点を挙げるとしたら――まだ受験生にもなる前から、成績を異様に気にしてピリピリしている一部の人がいたことくらい、だろうか。  本来なら、早いうちから受験勉強を始めて頑張る人がいるのは何も悪いことではないのだ。うちの学校からはそこそこ東大や早慶の合格者も出ていたし、成績優秀者であればあるほど先生や親からの期待も大きかったことだろう。  これは、高校二年生の冬。冬休みが空けた三学期のことである。 「何で、何で死んでしまったんやああレイメイくうううん……!」  漫画研究同好会に入っているあたりでお察しだが、私はオタクというものだった。同じクラスで同じく漫研に入っている友人、美波(みなみ)も同様である。  当時流行っていたカードゲームアニメ、決闘王のエイトシーズン。恐れていたことがついに起きてしまった。推しキャラのイケメンが、昨日の放送回で敵に負けて死んでしまったのである。カードゲームアニメで死人が出るというのはわりとよくあることなのだ、いや冗談抜きで。  私は嘆きながら登校してきて、丁度同じくらいの時間にやってきた美波に慰められているというわけだった。 「確かに死亡フラグは立ってると思ってたんだ、思ってたんだよおおお!でも、でも、レイメイくんの運命力ならきっと打開してくれると思ってたあああ。つか、最後のトラップカードがここで不発に終わって負けるなんてそんなことある?何でカレイドは墓地からトラップだしてくんの?ねえなんで?」 「おーよしよし。大丈夫だよ、まだ回想とかで出番あるから!」 「それは何の慰めにもなってないいいい!」  沼にどっぷり浸かっている人間にとっては、推しの死はリアル生活にも大きな影響を及ぼすのである。少なくとも今日一日、お通夜が続くのは免れられないことだろう。 「明日から私、どうやって生きていけばいいと思う?美波ぃ……」 「んな大袈裟な。次推しは生きてるんでしょ?シャンとしなって。あたしの推しのセレンくんだってだいぶ危ないし……」  そんな会話をしていたからだろう。私達は前方の注意がかなり疎かになっていた。廊下で真正面から、別の女子生徒とぶつかってしまったのである。  私達の教室がある方から歩いてきた眼鏡におさげ髪の少女。私が何かを言うより前に彼女はぎろりと睨んできてこう告げたのである。 「邪魔!」 「ご、ごめんなさい……」  いや、確かに悪いのはこっちだったけれど。だからってあんなにキツく言わなくたって。  私はびびりながら、トイレに消えていく彼女の後姿を見送ったのだった。
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