愛はいつだって君の傍

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 ***  当たり前だが、犬と猫では結婚なんかできない。体格も種族もあまりにも違い過ぎる。  それでもマオは、毎日のように私に求愛してきて、“子供なんかできなくてもいいし、交尾だってしなくていい。ただ傍においてくれりゃあ幸せなんだ”と言ってきた。わけがわからない。子供を作りたい気持ちもないのに、異種族に恋愛感情を抱くなんて、そんなことがありうるのかしら。  勿論、私の方だってマオのことは嫌いじゃないし、むしろ好きだけれど。今までそういう気持ちを他人(他犬)に向けられたことがなかったものだから、どうしても戸惑ってしまうのよね。  彼は幼いけれどとても賢いし、私のご飯や散歩の邪魔もしない。ただ、リビングにいる時ぴったりと私と寄り添いたがるだけ。人間の言葉や文字が読めるらしい彼はとても博識で、時々話してくれる人間知識はとっても興味深いものがあったわ。そう。  なんとなく穏やかで、なんとなく居心地の良い時間が。いつか寿命が来るまで続いていくと、私は信じてやまなかったの。  マオの一歳の誕生日を来月に控えた、その日までは。 「ねえ、マオさあ。うちに連れてっちゃだめかなあ?」 「ハ!?」  この家には両親の他、三人の姉弟がいる。一番上の姉は結婚して、半年ほど前に家を出て行ったところだったの。今は専業主婦ってやつをやっているみたい。  その長女がね。マオを自分の家に連れていってそこで飼いたいと言い出したのよ。当然マオは“ハァ!?”って顔をしているけど、本人はまったく気づいていない。 「奈々枝(ななえ)、あんたトイプードル飼ってるんじゃないの?マオまで連れていく気?」  母親が呆れたように言う。すると、長女はだってぇ、と口を尖らせて言ったのだった。いや、三十路超えた女がぶりっ子みたいな態度するのはちょっとやめた方がいいと思うんだけども。 「あたし、ここでマオとシャーリーと一緒に暮らしてたわけじゃない?家に犬と猫が両方いる生活って素敵だなーって思った矢先に結婚して出てったわけよ。トイプのカノンちゃんは可愛いけどお、やっぱり猫もいてほしいなって。ねえ、いいでしょお母さん。時々実家に戻してもいいからさあ」 「冗談じゃねえよ!それ、つまり俺様だけ連れてくってことだろ!?ごめんだ、ごめん!」  にゃああああ!と抗議の声を上げるマオ。でも、残念だけど人間に、猫の言葉は通じないのよ。  あろうことは長女は“マオも嬉しいって!”と真逆の解釈をして彼を抱き上げてくる。 「マオも、あたしと暮らしたいわよねー?ねえ、お母さん。とりあえず来週から一週間連れ帰らせてよお。カノンちゃんと仲良くできるかどうかも確認したいしい」 「おい馬鹿やめろ、頬ずりするんじゃねえ!俺は人間が嫌いだっつってんだろうがよ!」 「あはは、にゃんにゃん鳴いてる。やっぱ子猫ってかわいー!」 「人の話を聞けえええええええ!」  ああ、なんて可哀そうに。私は心底同情したわ。  いえ、違うわね。同情しかしていない、ふりをしようとしたの。  彼と違う家に住む。当たり前のように毎日会えなくなる。――それが寂しいってことに、気づきたくなかったから。
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