愛はいつだって君の傍

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 *** 「なあ、姐さん」 「……」 「姐さんってば、なあ」 「……何よ」 「何でそんなにスネてんだよ、なあ」 「スネてないわ」 「うそつけ。しっぽずーっと垂れ下がってんじゃねえか。耳もしょんぼりしてるしよ」 「うぐっ……」  どれだけ取り繕うにも所詮私は犬。耳とシッポは誤魔化せない。項垂れる私の背中をちょんちょんと肉球でつつきながら、マオは私に言ったの。 「寂しいの、俺様だけかと思ってたぜ。姐さんも、寂しいって思ってくれるんだな」 「……だって」  はあ、とため息をつく私。人間臭いのはむしろ私の方かもしれないわね。 「いつも隣にいた存在が、突然いなくなるっていうのよ。そりゃ、寂しくないはずないでしょ」 「それは、俺が好きだからか?」 「……わかんないわ。だって、子供を作ることも、交尾も考えない恋愛感情なんて……そんなもの、考えたことないんだもの。だって、私達は人間じゃないのよ。心だけ繋がっていれば満足できるなんて、そんな風に考えるのは人間だけ。違うの?」  この家で八年も暮らしている私だ。人間のドラマとかもよく見るし、ある程度彼らについての知識もあるつもりなの。人間は、他の動物とは違う。求愛することイコール、セックスをするってことじゃない。子孫を残すことでもない。恋愛感情があっても、一生そういうことを考えずに幸せに暮らすこともあるのだと聞くわ。私みたいな動物からすると、どうしても理解から遠いことではあるのよ。  隣にいるこの黒猫も、人間を嫌う人間ではないイキモノのはず。  そんな子が、ただ寄り添うだけの恋愛に満足できるなんて、そんなことが本当にあるのかしら。そして、私もそれで幸せを感じられるなんて、そんな不思議なことがありえるの? 「……俺様が保護猫なのは知ってんだろ?」  そんな私に、マオは語り始める。 「悪質なブリーダーってやつのところでよ。狭くてきたねー檻に押し込められてて、餌も少なくてよ。しかもその倉庫みたいなところがすっげー寒くて……毎日がりがりに痩せた体で震えてたんだ」 「それは聞いたことがあるわ。そのブリーダーが逮捕されて、残された動物は全部保護団体に引き取られたって」 「おう。もう少し逮捕が遅かったら、オス猫の俺は繁殖の役にも立たねえってんで、さっさと処分されてたかもしれねえな。……生まれて間もない子猫だった俺が、それでもどうにか生き延びられたのはな。すぐ隣の檻にいたゴールデンレトリーバーのおかげなんだ。その雌が、こっそり俺におっぱいを分けてくれてたんだよ。てめえの子供は、早々にみんな売られていなくなっちまったからな」 「え……」
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