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一日目
アパートの一室で、ノートパソコンの電源を切る。それが終業の合図だ。
胡座を解除し、視線をやや右に流す。時計は今日も零時後半を映していた。こんな生活も三年続ければ日常に化けるものだ。
固まった肩を回し、大欠伸をする。一息ついたところで、壁に預けておいた段ボールから食品を選んだ。全て、調理時間0分の商品ばかりである。
適当に取りかけて呼び鈴が鳴った。数日前の記憶が蘇る。
『軌道に乗ってきた祝い、送っといたから!』
久々に叔母から連絡があり、支援金の話かと思いきや、そんな言葉が飛んできた。その日から心待ちにしていたのだ。
深夜の訪問は、郵送サービスが九割を占める。この国では、配達を専用ロボットが担っており、個々での時間指定が可能だ。
で、僕は深夜を指定しているって訳だ。
裕福な叔母のチョイスである。思いもよらぬものが届くに違いない。高揚感を膨らませ玄関の扉を開く。
しかし、いたのはスーツケースを持った少女一人だった。赤い配達員を描いていただけに拍子抜けする。
驚きを汲み取ってか、少女は深々とお辞儀した。それから流暢に、しかし一定のトーンで言葉を綴る。
「はじめまして、アンメルと申します。この度はAIロボットレンタルサービスをご利用下さりありがとうございます。フォア様ご本人であることを確認させて頂きます」
瞬間、把握した。彼女こそが贈り物なのだ。懐かしく、それでいて新鮮な響きに、自然と心が浮わついた。
叔母は、サービスに関心があることを覚えていてくれたらしい。話す機会などほぼ無かったのに。
彼女――アンメルは、天然石に似た瞳で僕を見る。光の角度で変わる色が美しいな、と見つめ返してしまった。
「確認完了です。それでは本日より三ヶ月間、宜しくお願い致します」
区切りを察知し、平然を取り繕う。少女があのAIロボットだなんて信じられなかった。
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