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いちいち嬉しそうな顔をして見せるのが本当にムカつく。なのに愛おしい。弁当コーナーで俺のために頭を悩ませる和矢を想像したら、胸の奥がじゅわんとした。
なんだよじゅわんって、とムカついて
「うっぜ。いいから早く寄こせ」
と悪態をつく。
だけど自分の好みを抑えられていることがめちゃくちゃに嬉しい。
「あ、そういうこと言う良幸君にあげるのはちょっとなぁ」
「居候のくせに」
「いや、ある意味愛の巣でしょ」
「どの意味だよ」
と返しながら、そうだったら、なんて夢見そうになった自分の太腿に爪を突き立てた。
「俺と良幸の仲じゃん」
しょうが焼き弁当が目の前に置かれた。
こいつがどんな気持ちでそんなことを言うのか確かめる勇気なんて一生かかっても出せそうにない、と思うと落ち込む。
「ただの腐れ縁だろ」
そう言い捨てた。
それなのに、一度きりの恍惚が脳裏に蘇って俺を翻弄する。
和矢にとってはただの興味本位だったんだろう。普段明け透けなくせにそのことには一切触れないから、もしかして夢だったかもしれないし、二度と触れたくない話題として処理されたのかもしれない。
こいつのことだからとっくに忘れてしまっただけかもしれないが。
「……箸!」
考えるだけ無駄だと思い、和矢の方へ手を出した。
「ほい」
すかさず手渡された箸を口に咥えて、弁当の包装を荒っぽく破った。
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