腐れ縁

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流し台に寄り掛かって部屋の中を眺めながら、淹れたばかりのコーヒーを啜った。 途端、眉間がピクッと動く。 やっぱり今日も、美味いとは思えなかった。 今まではインスタントコーヒーの味に不満なんてなかったのに、とカップの中で僅かに揺れている液体を見つめた。試しに匂いを嗅いでみたが、別に変だとは思わなかった。 それならどうして急に不味く感じるようになってしまったのだろう。 味覚が変わったのか、疲れからそう感じるのか。まさか、淹れ方が悪いとか。 自分なりに原因を探ってみると、確かにこの一週間はバイトを入れ過ぎた気もした。コーヒーの味が変な気がし出したのも今週に入ってからだ。 過労で倒れてしまった店長の奥さんの代わりに入った新人が、たった一日で辞めてしまったから、結局その穴埋め要員が必要だったのだ。 親切にしてくれる店長を助けたい気持ちから名乗り出た。 だが、バイトの時間が増えたせいで味覚異常になるほど疲れてしまうのなら、そうも言っていられない。学業が疎かになれば、両親だっていい顔はしないだろうし。 店長に掛け合ってシフトを減らしてもらうよう頼むべきか。 なんだか気が進まない。 気分が沈みかけたとき、はたと思い付いた。 そうだ、まずはコーヒーの銘柄を変えてみればいい。それならすぐにできて、店長を困らせずに済む。 ちょっとした悩みだが、解決策が見つかってホッとした。なのにすぐ、嫌な気持ちになった。 和矢のことが脳裏に浮かんだせいだ。 あいつは本当に能天気で図々しいやつだ、と忌々しい思いが沸き起こる。 だが、その和矢はいなくなったのだ。 だったらもういいじゃないか、気にすることはない、と懸命に自分を宥めた。 俺にとってのストレスは確実に減ったはずだ。今朝だってこんなに静かな時間を過ごせているのは、和矢が出て行ったおかげなんだし。
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