32人が本棚に入れています
本棚に追加
夕方からのバイトを終えて帰ると、玄関の鍵が開かなくて戸惑った。差し込んで回すだけの鍵が開かないなんて、嫌な予感しかしない。
思わず部屋番号を確認する。
間違いはなかった。かえって不吉な予感がする。
だが、こんな時こそ落ち着くべきだと自分に言い聞かせ、考える。
施錠したはずの鍵はそもそも閉まっていなかったとか?
いや、そんなはずない。ちゃんと毎回確認してるし、防犯意識は高い方だ。
でも、もしかしたら今日に限ってうっかりしたのかもしれないぞ?
と次の可能性が浮かんで——。
まさか泥棒?
身構えた途端ドアノブが動いて、ドアがこっちへ向かって来たから慌てて飛び退いた。
「よっ。遅かったな。今日バイトだっけ?」
ドアを開けたのは和矢だった。ヘラヘラ笑っている。
「なにしてんだよ」
驚いたが、泥棒でなかったことに安心して肩の力が抜けた。だが、新しい彼女ができてこの部屋を出て行ったはずのおまえがなんで、と思ったら腹が立ってきた。
だけど合鍵を置いて行くよう要求しなかったのはお前だろ? と自ら突っ込んで、自業自得か、と気落ちした瞬間
「へへっ」
と笑われて、余計に腹が立った。
それでもすぐに、返せ、と要求できない自分にはもっと腹が立つ。
「邪魔だよバカ」
和矢を押しのけて中に入った。
ここは俺の部屋なんだ、俺が入って何が悪い、と内心プンスカしながら靴を脱いで、部屋の奥へと進む。
背後で和矢が、律儀に内鍵を閉める音が聞こえた。
なぜか口の端の筋肉が上に引っ張られるように感じて、本当のバカは俺か、とまたガックリする。
最初のコメントを投稿しよう!