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「おまえは新しい彼女のとこへ行ったんじゃなかったか」
荷物を置いて振り返り、開口一番そう言ってやる。
「行ったけどさぁ……へへっ」
和矢は笑った。人の気も知らないで。
「へへっ、じゃねえよ。不法侵入だぞ」
「それはないだろ。俺合鍵持ってんだし、ちゃんと理由あって入ってるし」
「どんな理由だよ。絶対ちゃんとしてねえに決まってるし。大体、おまえだって自分の部屋あんだろ?」
和矢の部屋の存在は指摘できるのに、さっさと鍵を返せとはやっぱり言えない。俺の目の前にいるのは、俺にそれができないとわかっていて居座り続けるような男だと、それはわかっているはずなのに。
「あるけど狭すぎてオバケ出そうなの知ってるじゃん」
言いながら、和矢は遠慮なくラグの上に座った。
「なんだよオバケって。しかも狭さと関係ないだろ」
むすっとして、俺も定位置に座る。
「俺的にはあるの! あと、彼女に振られたから出戻った」
大学生にもなった男が幼児のように唇を尖らせて言うのを、誰が可愛いなんて思うものか。
本当に、高校時代からちっとも変わらない男だ。彼女はできるが続かないのも、破局するたびわざわざ俺のところへ来るのも、一体どうしてだ。
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