恋人未満からの脱却

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脱がされ散らかったままの服を拾い集めると、その中からオーバーサイズのシャツを抜き取って羽織った。彼シャツというのをやってみたい気持ちはあったけれど、あいにく彼はシャツなんか着ていなかったし、まだ彼女でもないのに勝手に彼の服を着るなんて大それた事は出来ないから。 さっきまで散々曝け出していた体だが、隠せると少し安心できて、キッチンへ向かった。 冷蔵庫から水を取り出してベッドに戻り、端に腰掛けて、彼がタバコを吸う気配を背中で感じながら飲んだ。冷たい水が食道へ流れ込んでいく。 今までにない照れくささを感じるのは、体を重ねた分だけ二人の間に漂う空気が甘くなった気がするからだろう。もしかしたらこれを機に……。 そんなことを考えながら薄ぼんやりとした幸福に浸っていると、体を起こした彼が背中から抱きついてきた。タバコの火が私に触れないよう、一杯に腕を伸ばして私のことを囲う。 「俺にもちょーだい」 私の肩に顎を乗せた彼が言った。 「うん。どうぞ」 「飲ませてよ」 甘えるような低音に、母性本能がくすぐられる。
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