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言葉が出なかった。
「相性いいしさ。真友だってそう思うだろ?」
セフレ。
私と、彼が。
頭の中が真っ白だ。だけどすぐ、自分が欲していたのは随分と大それたものだったのだと気がついて、反省した。そもそも彼のような人が私なんかを本気で相手にしてくれるわけなんかないのに、どうしてそんな自惚れを抱いてしまったのだろう。
自戒していると
「なんだよ。真友だって感じてただろ? それとも、誰にでもそうなるの?」
と問われ、迷わず
「ちがうっ」
と答えた。
「じゃあ、俺だけ?」
試すような目に、頷いた。私は誰とでも寝る女なんかじゃない。今夜こういうことになったのは相手が彼だからだと、それだけはわかってほしい。
彼は満足そうに微笑んだ。
「付き合うとかなって、真友のこと縛るのやだからさ」
気遣うように、彼は言った。
だけどわかっているつもりだ。彼がこう言ったのは、私のためを思ってなんかじゃないことくらい。
彼女にする気はないけれど、抱ける程度には嫌いじゃない。そういうことなんだろう。
だが、たとえその程度でも嫌いだと言い渡されたわけじゃないのは救いだった。それに、この提案を拒んで彼と繋がる全ての可能性を捨て去るなんて無理だ。
一秒もかからずそう思った。
ほとんど溢れ出てしまっているこの思いを今この瞬間に抹殺して、彼との間には何もなかったのだと、自分に言い聞かせられる自信はない。
私は、目の前に現れた絶望を、希望だと思うことにした。ただの友達よりセフレの方がいいと、信じることにしたのだ。
セフレなら、キスもできるし触れられる。たとえ嘘だって、囁いてくれた睦言は私だけのものになるのだ。
それに、いつかに希望を持っていられるじゃないか。
「……うん」
微笑んでいた。
こんなときに気丈さを発揮する自分に何と言えばいいのか、今はまだわからない。
「決まり。じゃ、これからもよろしくってことで」
そう言って私の胸に顔を埋める彼の髪を撫でた。
いつ訪れるのかわからないいつかに期待してでも彼のそばにいることしか選べない私にできるのは、彼から向けられる情欲を、愛情だと信じることだけだ。
End.
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