山吹の頃

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 サークルは、特に入りたいところとかやりたいことはなかったが、興味が湧いたら入ってみようと前向きな気持ちでブースを回った。初日からありとあらゆる新歓イベントに勧誘され、ゴリゴリの運動部とか全く入る気がないものも、断れず次々に予定が埋まっていった。 「一回生同士の交流の機会にもなるから」 と、毎回一回生で固まった席に着くことになり、毎回一人反省会を開催することになる。  明確な目標がある人、おしゃれな人、すぐに同期と打ち解けられる人、先輩にかわいがってもらえる人。いつだって私以外がキラキラして見えて、緊張しっぱなしで会話も続かない田舎者の私だけ場違いみたいに思えた。コンパが始まって一時間後には、決まって席の端で盛り上がっている会話に都度頷くことによって、その場の市民権をギリギリ獲得している気になっている。  結局場違い感を否めなくて、そのサークルのイベントの連絡をくれていた先輩に「別のところに入ることにしました」と嘘をついて離脱する。  人脈を得られる場所はほしい。けれど、こうやって機会を逃し続けていけば本当に孤独になりそうだ。人見知りである以上は、サークルを諦めてバイト先のコミュニティに賭けるのもまた不安しかない。  大学生活に暗雲が立ちこめ始めていた矢先、私は「押し」に出会った。  星陀(ほしだ)大学混声合唱団ユピテル。入学から三日目に出会ったサークル。三日目はテニス部の新歓コンパに誘われていたけれど、どちらかと言えば合唱の方がまだ相性が良さそうという偏見で、後者に行くことにした。初日と二日目の慣れない勧誘ラッシュと学業面のオリエンテーションで精神的に疲憊していて、正直憂鬱だった。他の同期が友人と参加している中、同じ学部学科の友人すらいない私は案の定一人参加で、さらに息苦しい。  大学生活スタートダッシュ、失敗したかもしれない。慣れないことをしようとして、寧ろ空回りしてるよね……。
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