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新歓コンパ会場は、内装が和風テイストで全席掘り炬燵、また程よい暗さで全体的に落ち着いていた。私が入店した時には殆どの席が埋まっていて、唯一空いていた一番奥のテーブルまで息を殺しながら進んだ。
「一回生ちゃんだ!どうぞどうぞ〜」
「あ、はい、失礼します」
明るく艶のある茶髪が美しい先輩の横に音を立てないようそっと座る。向かいの席にはさらに明るい茶髪の男の人、その隣には黒髪メガネの男の人が座っていた。
「ニ回の山下です〜」
「俺は三回の長谷川。よろしく!」
「あ、竹田琴音です」
「何学部?」
「あ、理工学部、です」
「そうなん!松尾くんも理工学部なんやって」
長谷川さんは八重歯を覗かせて、ずっと目線を落としていた隣の子の顔を覗き込んだ。黒髪メガネくんが、松尾くん。同じ学部の人と同じテーブルになったのは、今回が初めてだった。
女の子だったらよかったなとか、最低な考えが浮かんできて自己嫌悪に苛まれる。
乾杯の挨拶の盛り上がりの後も、半数以上が初対面同士だというのにそこかしこで宴は沸き起こった。私のテーブルを除いて。
「合唱経験者?」
「いえ、初めてで」
「高校の時部活何やってたの?」
「あ、科学部です」
「すごい、賢いんだ!研究とかするの?」
「化学をやる人もいて、私は爬虫類を研究してたんですけど。殆どただ観察するだけなんですけど……」
「へー……」
あ、まただ。また私、つまらない返ししかできなかった。気の利いたこと言わなきゃと考えている内に、会話の歯車が合わなくなっていく感じ。せっかく、山下さんが話を振ってくれているのに。
長谷川さんが遠くの席の誰かに呼ばれて、笑いながらテーブルを離れていった。
「私もその映画めっちゃ好きー」
隣接するテーブルでは映画の話で盛り上がっており、山下さんがそこへ合流していった。
私と松尾くんだけのテーブル。
どうしよう、何か話さないと。全体の雰囲気に反して沈黙した空間は、かえって目立つ。隣とテーブルは接してるはずなのに、間には高い壁が生えていて取り残されたみたいだ。
松尾くんは、目の前のこんもり盛られた料理に黙々と手をつけ続けている。あ、静かに食事したいタイプなのかも——。私が気まずいからって話しかけたら、かえって嫌かもしれない。
脳内議論が白熱し、小皿に取った焼き鳥は冷めていく。できることなら、ようやく出会えた同学部の同級生と、話せるようになりたかった。でもまた、私は変われなかった。同じことの繰り返し——。
「お隣、よろしい?」
ことんと澄んだ音を立てて、視界の隅に飲みかけのビールが入ったジョッキが映り込んだ。
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