山吹の頃

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「さりげない気遣い、トーク回しの巧みさ、ツッコミのワードセンス、それに癒しの御尊顔。さながら若くしてバラエティ番組の司会を務める高スペックお笑い芸人さんだよ」 「へー琴ちゃんの話ぶりからしてほんといい人そうだね。吉野さんだっけ」 「あ、違う違う。推しは八木さん」 「ごめんごめん、そっちか」  楽しい。楽しすぎる。  推しのことを語るのってこんなに興奮するのか。  高校時代、なべちゃんは少年漫画のキャラクター、あつこはKPOPアイドルにハマっていて、休み時間はよく推しの話で盛り上がった。話を聞いているだけでもすごく楽しかったけれど、その流れでお気に入りの爬虫類の話をする私だけ、なんかベクトルが違うなと感じていた。  あの頃、二人が推しのことを語る時異様にテンション高かった理由、ようやく分かった気がする。 「それって、押し通り越して恋に発展したりしないのかなぁ?そこんとこどうなんよ、琴ちゃん的に」  ニヤニヤ不敵な笑みを浮かべるなべちゃんの問いを解釈するのに、少し時間を要した。つまり、八木さんと彼氏彼女の関係になりたいか、ってことか? 「いやいやいや!畏れ多いって!お姿を見れるだけでありがたい存在なんだから。ああいう人格者は、きれいで性格のいい人格者と結ばれて然るべきだよ」 「おお、全否定」 「まあ押しには幸せになって欲しいってのは、ワカル」 「そう、そういうこと」  八木さん雰囲気からして優男感半端ないし、綺麗な彼女さんだってきっといる。それこそ、金子さんみたいな。勝手にくっつけちゃったけれど、うん、お似合いだ。 「お互い、大学生活順調そうで何よりよ」  あつこの言葉に、私は二回も深く頷いた。
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