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山吹の頃
どのタイミングで切り出そう……。
そろそろ回ってくる、かな。
ああー、早く二人に話したい!
「琴ちゃんは?大学生活どんな感じ?」
きた!
あの人のことを頭に思い浮かべるだけで、血流が加速する。お風呂から上がって一時間は経っているというのに、再度身体が火照ってきた。
「実は、合唱サークルに入ったのだけども……。そこで押しができたのだ」
キャーと足をバタバタさせて、高鳴る気持ちを誇張してみる。それに呼応するように、なべちゃんとあつこも黄色い歓声を上げる。
「ついに琴ちゃんにも押しが!ねえどんな人?」
「えっと、学年が一つ上の先輩」
「合唱サークル入ったのも、その先輩がいるからってこと?」
「えへへ、あたり」
流石あつこ。私の下心が簡単に見破られてしまった。高校からの付き合いで私が歌が苦手なことだってバレている。会話の中で見栄を張ったり下手に気を遣わなくていいから、心から楽しめる。でも1Kの部屋の中では私の生の声だけが反響していて、同時に一人暮らしを実感し少しだけ寂しくもなる。
「もっと詳しく詳しく」
なべちゃんのアシストで、私は堪えに堪えてきたエピソードトークを初解禁することとなった。
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