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【最終話】永遠への道
冬が来て、また春が来た。
若草が生い茂り、小さな花々の香る季節。
若葉の芽吹く新緑の森を、私たちは二人で歩いた。
まだ冷たさを残した風が心地よい。
歩きながら籠一杯の山菜を集め、一羽の兎と、山鳥を捕らえた。
それらを一旦家に持ち帰り、今度は二人そろって釣りに出る。
ダルフェイは、釣りがあまり得意ではない。
きっと優しすぎるから、餌ばかり与えてしまうのだ。
ふくれっつらをしている彼に笑いながらそういうと、彼はますます不機嫌そうな顔をした。まるで子供のように拗ねるその様子が、可笑しくてたまらない。
彼と暮らしているうちに、私は肉や魚が普通に食べられるようになった。そのおかげか、血が足りずに体調を崩すことも、少なくなった。
「やれやれ、そんなに餌をまかれては、釣れるものも釣れなくなる」
「いいんだ、君が笑ってくれるなら、釣りなんて上手くならなくったって」
「それで腹が膨れるのか?」
「膨れるさ」
とりとめもない会話を続けながら、そうして夕刻まで私たちはサルマキスのそばにいた。
風が冷えてきて、思わず身を震わせる。その肩を、ダルフェイが抱いた。
「風邪を引かないうちに、帰ろう」
結局、獲物は私が釣った2匹だけ。これを焼いて、肉と野草でスープを作ろう。
夕闇に染まっていく湖に、私は思った。
いつか、私たちにも、この森に還る日が来るだろう。互いに不死に近い種族の血を引いているとはいえ、生物である以上この命にはいつか終わりが来る。私が先か、ダルフェイが先かはわからないが……その日が来るまで、できる限りの幸福な時間を二人で築いていきたい。彼と出会い、共に生きるべくして私は生まれてきたのだと……心からそう信じることができるから。
様々なことがあった。辛いこと、悲しいこと……一度は、命さえも捨てようとしたこともあった。
だが、そんな思い出さえも、今はただ懐かしく振り返ることができる。
この美しい湖のように、この美しい森のように私は生きていこう。いつかその一部となって、景色の中に還る日まで。
ダルフェイ……お前と共に。
―完―
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