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【第一章】出会い①
霧の合間から見える風景が、次第にはっきりとしてきた。
神々しい朝日の煌きが、無数に湖に反射する。
今日はいい天気だ。久しぶりに森の散策をしてみるのも悪くない。ついでに、自生している季節の果物を狩ってこようかと、動きやすい服に着替え、皮袋を肩に下げる。しかしなるべく目立たないようにと選んだはずの黒衣が、この怪異な姿をかえって際立たせているような気がして、私は苦笑した。
幸いにして身軽さは母ゆずりで、私は木々の合間を風のごとくに移動することが出来た。地上の道を歩くよりも、そのほうがずっと楽なぐらいだ。
朝露に濡れた森の香りが心地よい。
風の妖精シルフが、肩先に戯れてきた。
女性に似た、しかし性を持たない小さな存在。
その愛らしさに、自然と笑みがこぼれる。
言葉を交わすことはないが、こんな私にも構わずに戯れてくる無邪気で陽気な彼らが、私はとても好きだった。
だが、今日は彼らの様子がおかしい。
何か警告を発しているのか、私の目の前を遮るように群がってくる。
一体なんなのだ?
不審に思い、太い木の幹に隠れて地上を見下ろした。
やや前方の、土が剥き出しになった山道。
遠くから聞こえてくる微かな音に、私の耳が反応した。
すりあう金属の音。
獣のような奇声。
下卑た笑い声。
足音――それも、かなりの数。
怒声。
誰かが、号令を放っているらしい。
モンスターだ。
私は警戒した。
おそらく、オーガの率いる団体だろう。
すぐにその場から逃げ去ってしまってもよかったが、何故か好奇心が疼いた。
息を殺して待っていると、程なく獣くさい団体がやってきた。
一匹のオーガを頭にした、ゴブリンとオークの戦闘団。
棍棒や蛮刀を振り回し、ゲタゲタと汚い笑い声を上げている。
このまま真っ直ぐ行けば……そこは人間の住む里。
村を襲いに行くつもりなのだろうか?
戦いの予感に興奮しているのだろう、息の荒い……雄の集団。
何故か恐怖よりも、楽しそうだという感想が私の頭をよぎった。
群に囲まれたオーガの、一際大きな体。分厚い筋肉の固まりのような肉体。
ふと、オーガがこちらを見上げた。
見つかったか……?
一瞬戦慄が走ったが、しかしオーガはすぐに視線を前方に戻した。
黄色い、蛇のような瞳。
醜く……猛々しい容貌。
彼らが村の方向に去っていくのを見送っても、私は何故かしばらくそこを動くことができなかった。
彼らが羨ましい――。
何故、そんなことを思ったのか。
たとえ一瞬でもそう感じた自分に、私は慄き、身震いした。
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