【最終話】永遠への道

1/1
前へ
/72ページ
次へ

【最終話】永遠への道

 冬が来て、また春が来た。  若草が生い茂り、小さな花々の香る季節。  若葉の芽吹く新緑の森を、私たちは二人で歩いた。  まだ冷たさを残した風が心地よい。  歩きながら籠一杯の山菜を集め、一羽の兎と、山鳥を捕らえた。  それらを一旦家に持ち帰り、今度は二人そろって釣りに出る。  ダルフェイは、釣りがあまり得意ではない。  きっと優しすぎるから、餌ばかり与えてしまうのだ。  ふくれっつらをしている彼に笑いながらそういうと、彼はますます不機嫌そうな顔をした。まるで子供のように拗ねるその様子が、可笑しくてたまらない。  彼と暮らしているうちに、私は肉や魚が普通に食べられるようになった。そのおかげか、血が足りずに体調を崩すことも、少なくなった。 「やれやれ、そんなに餌をまかれては、釣れるものも釣れなくなる」 「いいんだ、君が笑ってくれるなら、釣りなんて上手くならなくったって」 「それで腹が膨れるのか?」 「膨れるさ」  とりとめもない会話を続けながら、そうして夕刻まで私たちはサルマキスのそばにいた。  風が冷えてきて、思わず身を震わせる。その肩を、ダルフェイが抱いた。 「風邪を引かないうちに、帰ろう」  結局、獲物は私が釣った2匹だけ。これを焼いて、肉と野草でスープを作ろう。  夕闇に染まっていく湖に、私は思った。  いつか、私たちにも、この森に還る日が来るだろう。互いに不死に近い種族の血を引いているとはいえ、生物である以上この命にはいつか終わりが来る。私が先か、ダルフェイが先かはわからないが……その日が来るまで、できる限りの幸福な時間を二人で築いていきたい。彼と出会い、共に生きるべくして私は生まれてきたのだと……心からそう信じることができるから。  様々なことがあった。辛いこと、悲しいこと……一度は、命さえも捨てようとしたこともあった。  だが、そんな思い出さえも、今はただ懐かしく振り返ることができる。  この美しい湖のように、この美しい森のように私は生きていこう。いつかその一部となって、景色の中に還る日まで。  ダルフェイ……お前と共に。  ―完―
/72ページ

最初のコメントを投稿しよう!

37人が本棚に入れています
本棚に追加