【第一章】悪夢①

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【第一章】悪夢①

 それから、約10年が過ぎた。  年月が流れ、少しずつだが確実に大人になっていくダルフェイ。変声期を終えたその声も、今は私よりずっと低く柔らかい。  たくましさを増してゆく少年の体。  それを目の当たりにすることが、私には耐えがたかった。  嫌悪と……そして、狂おしいまでの憧憬(どうけい)。  あの子を見ていると、日に日に自己嫌悪が増していく。  私には無いもの、私が欲しかったものを……あの子は、何の苦も無く手に入れることができるのだ。そう思うと、耐えられなかった。私にあるのは……ただこの不完全な、忌まわしい体ばかりだというのに。  気分が悪いといって、その日はダルフェイ一人を狩りに行かせた。  もう一人で森を歩いても危険はないだろう。筋力は私とは比べ物にならないほど成長したし、狩りの腕も確かだった。これから先あの子が生きて行く上で、私は必ずしも必要とはされないのかもしれない。そう思うと、彼の成長が嬉しい反面、どこか寂しくもあった。  しばらくベッドに突っ伏していたが、とても眠れるような気分ではなかった。  気晴らしにシャワーでも浴びようと、立ち上がる。  貧弱な体。  背は高いが、細い腕も、肩も、男らしいというには程遠い。  私はもっと、力強い体が欲しかった。  何処からどう見ても、立派な男に見えるような……そんな体が欲しかった。  いや、貧弱でも構わないのだ。  何処からどう見ても()()()()()()()()体ならば……。  殆ど水に近い冷たいシャワーを浴びる。  ホッと息をつくはずのこの時間が、私には重苦しい。  誰にも見られないようにこっそりと、誰にも気づかれないよう静かに……細心の注意を払っても、床に叩きつけられる水音は、いつも私をひどく怯えさせた。  体を伝い落ちるしずくの流れに身を震わせ、気力を奮い立たせるように深く息を吐き出す。  水音が止んでも、次の行動を開始するまでに、私はいつも時間がかかった。  髪に染み込んだ水を絞り、浴室を出る。  柔らかいタオルに顔を埋めそのほのかな香りを感じると、ようやく呼吸を取り戻せるような気がした。  しかし……。  ああ、しかし、私はなんという不注意を犯してしまったのだろう――。  突然開け放たれた扉。  一瞬、慌てて照れたような笑みを浮かべたダルフェイの顔が、愕然と凍りつく。 「あ、ラル……ム、――?!」  信じられないものを見たというように、ダルフェイの目が、(ひる)んだような色を宿して私を見上げた。  いや、信じられなくて当然だ。  私とて、こんな事実……生涯、目をそむけていたかったものを――! 「み、た……な」  絞り出した声は、ただの(うめ)き声にしかならなかったかもしれない。  微かに……血の匂いがする。  眩暈(めまい)が――。  倒れる。  そう感じた次の瞬間、私は意識を手放していた。
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