【第一章】悪夢②

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【第一章】悪夢②

 誰かが笑っている。  (あざけ)るように、(さげす)むように。   不快な視線。視線。視線……!  好奇と、侮蔑の入り混じった――ああ、なんて嫌な目つきなんだ。  怖い。  怖い――!  自分の体を抱えるようにして、私は必死に走った。  何処までも続く、暗闇。  逃げて、逃げて逃げ続けても、この先には――。  この先には、何も……ない。  誰か、助けて……!  母さま、母様――!!  足がもつれ、転んだ拍子(ひょうし)に腕と膝を()りむいた。  モウ、ハシレナイ。  暗闇の中、それでもわかる……赤い、一筋の血の流れ。  イタイ。  倒れた私の髪を、誰かが引っ張る。  何故、私はこんな目にあわなければならないのだろう。  一体、私が何をしたんだ。  好きで生まれてきたわけではない。  いや、できることならば……私は生まれてきたくなどなかったのに。  怖い。  怖い――!  ダレカタスケテ……!!  つかみかかる、無数の手。  笑い声が聞こえる。  お前たちは誰なんだ。  何故、私をいじめるの……?  痛い。  痛い。  痛い。  もう私に触らないで。  お願いだから放っておいて。  ああ、真っ暗で……何も見えない。  体に纏わりつくものを必死に振り払い、這うようにして私は再び走り出す。  誰か、助けて……。  でなければ、殺してくれ……!  殺して。  お願いだ……。  もう、殺して……く、れ……。  寒い。  苦しい。  冷たい、冷たい……。  もう、耐えられない。  深い絶望の中そう感じた時、私はふと、何か大きく温かいものに包まれたような気がした……。
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