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【第一章】温かな腕④
ダルフェイは言った。
「僕は、人間とオーガの子供だけど、どうしてそれがいけないのか良くわからなかった。ただ、僕がいると父さんが悲しくて、だから、僕も悲しかった。でも、ラルムに会えて……一緒にいてくれたでしょ? だから、僕はこのままでよかった。僕が他の何かにならなくたって、ラルムは一緒にいてくれる。だったら……他に望むことなんて、僕には何も思いつかなかったもの」
「……」
「僕は、あの湖に入ったら、ラルムがいなくなっちゃうんだと思ってた」
大事なものを失うと言ったから――。
そう言って、ダルフェイは少し悲しそうな顔をした。
「ラルムは僕の願いを叶えてくれた。ずっと、一緒にいてくれた。それなのに、僕は君の願いを……何も叶えてあげられない」
「……」
「ラルムの願いを、叶えてあげられなくてごめんね」
「ダル……」
「知られたくなかったこと……知っちゃってごめんね」
今にも泣き出してしまいそうなその顔を見て、私はようやく微笑むことができた。
「……大丈夫だ、何もお前が泣くことはない」
体は大きくなったけれど、中身はまだまだ幼い……ダルフェイ。
しかし、その純真で清らかな心の強さに、私は魂を救われた気がした。
「私がバカだったのだ……。お前は、何も悪くなど無い」
「ラルム……」
「心配をかけてすまなかった。私はもう……大丈夫だ」
たった一人でもいい、誰かに認めて欲しかった。
誰かに必要とされたかった。
私という存在がここにあるということを……誰かに、わかって欲しかった。
「もし、私の願いを聞いてくれるなら……ダルフェイ、これからもずっと、傍にいてくれ」
私はそう言って、ダルフェイの胸に顔を寄せた。
広く……温かいその胸。
たくましい腕が、しかし、不思議なくらいに繊細に、優しく私の肩に触れ……そのまま、そっと抱きしめられた。
自分でも良くわからないのに、涙があとからあとから溢れて止まらない。
嗚咽に震える体を抱きしめる腕の力強さが心地よかった。
自らの持つ性を否定し、頑なに男でありたいと願った――もしかしたら、それこそが私の中の女性の部分だったのかもしれない。
その日の眠りは、今まで生きてきた中で一番安らかだった。
一切の夢を見ることも無く、ただ平凡な安堵と平穏に包まれて……。
私はようやく、自分を愛することができるような気がした。
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