19人が本棚に入れています
本棚に追加
たづ姉さんはいつもジプシーのようなロングのワンピースを着て、豊かな黒髪にパーマを当てていました。色白でまつ毛が長く、声はハスキーで、背が高くて。
どこか殿方めいたところがあるのが魅力なのでしょう。女子寮でも、こころ密かにたづ姉さんを慕う者がたくさんおりました。
もちろん私もそのひとりで。数ある同期生のなかでも、私だけがたづ姉さんと同室になれたことが嬉しくて。
私たちの職場は繊維工場で、そこでは数多くの女性の職工さんたちが働いていました。それは大きな工場で、女子寮があるのが魅力でした。
他県からもたくさんの若い女性たちが働きに来ていました。私もそのひとりでした。
そして、これは時代なのでしょうが、みんな腰掛けのつもりで働いていました。
いいひとを見つけるか、縁談するかして、年かさの者はどんどん辞めていきました。
そこにいるのは、ほんの数年。その当時は思いませんでしたが、煌めくような青春の一ページでした。
仕事はきついし、面白くないし、食事だってたいして美味しくありません。それでもみんな、未来を夢みていた。楽しかったと、いまならば言えます。
最初のコメントを投稿しよう!