chapter7 渚のバルコニーで待ってて

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藤子は大きなヴィトンのスーツケースをひきずって アパートの階段から降りた 外に出て駅までタクシーを拾おうとしたら 歩道をふさぐように駐車してある ガンメタのマセラティを見つけた そしてハッとした 文也がマセラティに寄り掛かって自分を待っていた 思わず驚いて脚を止めた どうして家が分かったんだろう? 彼はすっきりとした デニムの半袖シャツに 白のダメージジーンズを履いていた とっても素敵だ 木の下に立っているので木陰が 上手く早朝の夏の日差しを遮っている 鼓動が跳ね上る 「空港で待ち合わせしてたから ここで会えるとは思っていなかったわ 」 彼はスーツケースを引きずって 歩いてくる藤子を見つめていた 「車で空港まで行こうと思ってね どうせなら藤子ちゃんも乗せて行こうと思って 面倒なヤツだと思われてないといいんだけど 」 絶対に彼を面倒なヤツなんて思っていない 藤子は彼に歩み寄った 「ここに立っていたなら暑かったでしょう」 優しい声で言う 文也は自分の車を示した    「実はついさっき降りた所なんだ 君がそのバカでかいスーツケースを引きずって アパートの階段を下りてくるのが見えたんだ たしか1泊じゃなかった? 家出でもする気?    」 文也がブハハっとスーツケースを 藤子から受け取って笑った   文也が解除ボタンを押すと マセラティのヘッドライトが点滅した
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