chapter7 渚のバルコニーで待ってて

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文也は藤子の手を取って その車高の高い車に乗せ シートベルトのバックルを止めてくれた 途端に心地よい冷房の冷たい空気が藤子を包んだ  ああ・・・涼しい~~ 座席にゆったりと沈み込み 手入れの効いた革の匂いを嗅いだ 運転席の小型飛行機さながらに 計器がいっぱいついた ダッシュボードや大きなルームミラーを眺める クーラー通風孔は自動で左右に動いている 彼がトランクに藤子のスーツケースを乗せて 運転席に座るとその長い脚と長身で シートがいっぱいになった 助手席の前に随分余裕のある藤子は シートに座り直して エンジンをかけて 運転する彼をうっとりと見つめた まっすぐ前を見ながら 視線はあちこちのミラーを見渡している 「空港についたら・・・ 」 「あん!こっち向かないで! まっすぐ前を見て! 運転してる横顔が素敵だから見ていたいの」 藤子は滑らかなイタリア製の皮張りのシートに 膝をついて文也をじっと見て言った ブハッ 「なんだそれ!」 「こっち見ちゃダメだってば」   「ハイハイ」 彼はフロントガラスの向こうを見つめ ほほ笑んでいる う~ん・・・運転している彼は素敵だ
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