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車が駐車されてもここがどこかはわからなかった。
青々とした木々と朝顔やひまわりに囲まれた緑いっぱいの場所。
結局、獅子谷は来なくて渋谷と二人きりなんて……申し訳ないがテンションは一切上がらない。
車から降りると楽しげな音楽と何やら放送はかかっていたが、手作り感満載の祭りの雰囲気に戸惑う。
「は?何だこれ」
風船を貼り合わせて作ったゲートの脇には決して上手いとは言えない字で書かれた“納涼バザー”の立て看板。
「いいから行くよ」
歩き出す渋谷を追ってゲートを潜ると、渋谷はすぐ脇にあったテントに向かった。
「元気そうだな」
そこに白い紙を差し出すと、
「順くん!今年も来てくれてありがとう!」
受け取った男は隣の男に手渡してから手元にあったノートパソコンのキーボードをサッと叩く。
「滝本くん、休憩してきていいですよ!一緒に回りたいですよね?」
「本当に!?ありがとうございます!」
嬉しそうににこにこと笑ってその滝本という男が立ち上がった。
渋谷もお礼を言うと、テーブルの向こうから出て来た滝本に腕を差し出す。
滝本はその腕に掴まるとニコッとこっちを見てきた。
「こんにちは!滝本実です。きみはどなたですか?」
その顔がやたら近くてたじろぐ。だが、
「え!?実って……」
渋谷を見ると、渋谷はクスクスと笑いながら頷いた。
「そうだよ。幼なじみその一」
「え?何が?」
首を傾げながらもにこにこするその滝本をじっと見てしまった。
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