うるさい

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うるさい

「遅刻」  ペシンと後頭部を何かで軽く叩かれてイラつく。  振り返りつつ握って打ち込んだ拳は細く弱そうにしか見えない左手であっさりと受け止められて驚いた。 「てめ……」  表情も特に変えることなく俺の拳を片手で止めている獅子谷。  昨夜のことを思い出してちょっとドキッとしたのに、平然としていてムカついた。  そもそもこいつの方がバラされたらマズいはずなのに。 「つか、よく受け止めたな」  手を振り払って睨むと、獅子谷はそれで俺の頭を叩いたであろう教科書を降ろす。  メガネの位置を直して軽く左手をプラプラと振ると目を細めた。 「毎日毎日、お前が登校するのは早くて二時間目。どういうことだ?」 「うっせぇ」 「うるさく言われたくなければちゃんと来い。今日だってもう二時間目も終わるぞ」 「関係ねぇだろ」 「あるんだよ。お前の担任だから」  追いやってダンッと壁に拳をぶつけて睨み落としても、獅子谷は平然としている。  十五センチほど下からじっと見てくるその黒い瞳。  その目が涙で濡れて蕩けるのをなぜか思い出してしまう。だが、 「クソチビが……っ」  舌打ちと共に吐き出した瞬間に鳩尾に信じられないくらいの衝撃を受けて崩れてしまった。  何が起きたのかよくわからない。  ただ、すぐにはまともに息ができないほど見事に決められたことはわかる。  獅子谷の右膝が降りたのを見て、これが入ったのはわかったが、悔しいことに身体を起こすのもキツかった。  こいつ……何者だ?  チビで貧弱にしか見えないのに……そんなのにたった一発でやられたのか?
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