2人が本棚に入れています
本棚に追加
「ふう……。落ち着くわ……」
庭に出ると、口と心に広がっていた闇は取り払われ、清々しい空気に包まれる。
私はこの庭が大好き。
小さい頃から庭師の葉一郎さんが手入れしてくれているおかげで、この庭はいつも綺麗な状態を保っている。嬉しいことね。
「楓様、いかがなされましたか?」
葉一郎さんが私に気が付いて声をかけてくる。小さい頃からいつも私を気に掛けてくれる。私の落ち込み具合が伝わったのかもしれない。
「ああ、葉一郎さん。何でもないの……」
「ふむ……」
そう言って葉一郎さんは小さなピンクのウサギの絵の描かれた包み紙を私に差し出した。
強面で知られる葉一郎さんは見かけによらずと言っては失礼だけれど、こういうかわいいものを好んでいる。
屋敷に新しくやってくる人たちは、はじめは怖がって近づこうとしないけれど、葉一郎さんのこうした一面を知ると途端に話しかけてくるようになる。喜ばしいことなのだけれど、少し複雑な気持ちもある。
かく言う私も、葉一郎さんが何か悪いことをするために屋敷にいるのではないかと思っていた時期があった。私が生まれるよりもずっと前からこの屋敷に勤めているのにね。
人を見かけで判断してはいけないわね。
「気分の落ち込む日は、私もよくなめるんですよ」
「ふふ、ありがとう。頂くわ」
私が受け取ると葉一郎さんは満足そうに作業に戻っていった。
最初のコメントを投稿しよう!