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「全く、頭にきちゃう!」
お父様の言葉に我慢ができなくなって、思わず部屋を飛び出してしまったけど、途端に悲しみが込み上げてくる。
彼が何をしたと言うの?
私が下を向いて廊下を歩いていたら、何かにぶつかった。
「楓様……」
顔を上げると彼が心配そうな目で見ていた。
「あ……」
彼が悲しそうな顔をする。
やめて、そんな顔。
「旦那様に、何か言われましたか、私のことで?」
「う、ううん、何でもないの。大丈夫よ、あなたはいつも通りにしていれば!」
悟られたくない。
彼は優しい人だから、もし彼がさっきのことを知ったら、出ていってしまうかもしれない。
「ですが……」
「いいの、あなたは何も心配しないで! お父様に何か言われたとしても、気にすることないんだからね!」
私がそこまで一気に言うと、彼はコクコク頷く。
「それでいいのよ。絶対にお父様の言うことなんか真に受けないでね」
「……わかりました。あ、そう言えば、先ほど庭師の葉一郎さんが楓様のことを捜していらっしゃいました」
「葉一郎さんが?」
「ええ、楓様を見かけたら庭に来るように伝えてほしいと」
何かしら。葉一郎さんから呼ばれるなんて珍しいわね。
「あなたも来る?」
「私は、旦那様から呼ばれているので……」
このタイミングで? まさか葉一郎さん、お父様に何か唆されているんじゃ……。と思ったけど、葉一郎さんはそういう人じゃないわ。反省。
「わかったわ。でもさっき私が言ったこと、忘れないでね」
彼が私を見て頷いたことを確認して、私は庭へと足を向けた。
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