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私が庭に出ると、葉一郎さんはすぐに私に気が付いて箒を持ったまま近づいてきた。
「楓様、捜しておりました。彼が伝えてくれたのですね」
「ええ、とてもいい人でしょう?」
葉一郎さんはにっこり微笑んで頷く。
「旦那様が何と言おうと、私はお二人のことを応援しておりますよ」
葉一郎さんの言葉に、私は慌てる。
「ちょ、ちょっと待って。私と彼はそんなんじゃないわよ?」
葉一郎さんは当てが外れたように、少し残念そうな顔をする。
「おや、そうなのですか? てっきり楓様にも春が来たのかと思いましたのに……」
「葉一郎さんったら……」
でも、やっぱり葉一郎さんは私の味方だ。彼のことも理解してくれている。それだけで幾分か気持ちが軽くなる。
「まあ、事実がどうあれ、旦那様の心配は、わからなくもないですが」
「葉一郎さんはわかるの?」
葉一郎さんが両手で箒の柄を持つ。
「旦那様は別に彼を嫌いなわけではないと思うのです。ただ、楓様がもし彼とそういうことになれば、親としては寂しい気持ちもあられるでしょう。それに奥様のこともありますからね、相手が執事ともなれば、不安も大きいのでしょう」
「それって、どういうこと?」
葉一郎さんが遠くを眺める。
「……ここだけの話ですがね。昔、奥様がご自分の執事と恋人同士だったことがありまして。まあ、色々あって結婚にはいたらなかったのですが」
「もしかしてそれが原因でお父様も彼のことを……」
「おそらく」
そうだったんだ。だからと言って横暴だと思う。でも、お父様が彼を警戒する理由はちょっとだけ理解できた、気がする。
「……でも、彼の気持ちがどうなのか、わからないでしょう?」
と言いつつ彼のあの目を思い出すと胸がざわつく。
「彼の気持ちはともかく、楓様にとって一番大事なのは楓様のお気持ちなのではないですかな?」
「私の、気持ち……」
私は、彼のことを……。
「……私には、まだよくわからないわ……」
「楓様はまだお若いのですから、焦らなくても大丈夫ですよ。ただ、もしAIの彼にしろ誰にしろ、楓様に本当に愛する人ができたときには、決して諦めてはいけません。楓様はご自分の思うようになさってください」
「葉一郎さん……」
私の思うように、か。
もしかして葉一郎さん、私を元気づけようとして呼んでくれたのかしら。
私は彼を好きなのか、彼は私を好きなのか、正直そのどちらもまだわからない。
けれど、私は彼とこれからも仲良くしていきたい。お父様から何を言われたとしても、私が彼を守ろう。
彼には、ずっとここにいてほしい。
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