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「楓様、ティーをお持ちいたしました」
その瞬間、私の心に黒煙が上がる。
「あ、ありがとう……」
私は読んでいた本をテーブルに置いて、差し出されたカップを両手でおそるおそる受け取った。
カップを鼻に近づける。
「……」
とてもいい香りとは言えない。私は彼を見上げる。彼は私が飲むのを待つように、表情もなく、こちらをじっと見ている。
意を決して、私はカップに口をつけ、一口飲む。
……まずい。
「楓様、他に何かご用はございますか?」
私は彼の目も見ずに、口の中にまとわりつく不快感を何とか喉の奥に引っ込めて答えた。
「今は、別に……」
「承知しました。ご用がございましたら、何なりとお申し付けくださいませ」
右手を前にペコリと一礼して部屋の端に下がる執事。その顔は無表情のまま。
「はあ……」
彼が来てから約一ヶ月。執事としては本当によくやってくれている、と思う。
だけど、納得いかないのは。
「ほんとに、AIなのかしら……?」
彼の見た目は本当に人間と変わらない。でも人間よりも丈夫で、人間とは違って感情を持たないから恋愛などに発展しないだろうということで父が雇った。
それは言いのだけれど、彼が来てから私の爽やかなティータイムは心の沈む最悪のティータイムになってしまった。
AIには感情がない。けれど、聞くところによると、一応感情を理解するセンサーみたいなものは付いているらしい。だったらもう少し私の気持ちを汲み取ってくれてもいいのに、と思う。
でも、不満なのはそれだけじゃない。
「私、ちょっと庭に出てくるわ」
「では私も行きます」
表情も変えずに答える彼。
「いいわよ。一人で行くから」
私は冷たく言い放って部屋を出た。
そんなこと、意味がないとわかっているのに。
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