エピローグ

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エピローグ

 髪をなでつけて高級なスーツを着込み、アルツは社長との再会に臨んだ。  指定の部屋に入ると、据え置かれた丸テーブルと椅子の向こうに、見慣れた男の後ろ姿があった。嶺二を破滅に追い込むために、幾度も話し合いを重ねた相手だ。  アルツは咳払いをすると、声をかけた。 「お久しぶりです、社長」 「ああ。久しいな、アルツ」  振り向いたのは、キリマキ製薬会社の社長──霧牧(きりまき)だった。    ***  霧牧は、鋭い視線をアルツに向けてから、大股でテーブルの前まで歩いてきた。椅子を引いて腰を下ろすと、アルツにも座るよう目で促す。 「いやあ、大成功でしたよ」  一礼してから着席すると、アルツはさっそく口を開いた。 「超小型インカム越しの、社長の的確な指示のお陰で、怪しまれることもありませんでした。ちょっと甘い言葉で手なづければ、もう怪しまれることもなく、トントン拍子に進みましたねえ」 「手を悪事に染めることを嫌う、潔癖な奴だった。合法で他人に頼めるものなら、喜んでやらせただろうさ。そもそもあいつには、寝不足になるほどの仕事をやらせていた。正常な判断などできまい」 「肝心な部分さえも人任せの、チンケな野郎です」 「牢屋にブチ込まれて、あいつもいい薬になっただろう」 「ずいぶんと荒療治ですね」 「そうだとも」  霧牧が、やや満足げに鼻を鳴らした。その顔を眺めながら、アルツはだらしない笑みが浮かんでくるのを感じていた。 「ところで、社長。約束の報酬を──」 「ああ、そうだったな」  手を差し出すと、社長が懐に手を入れ、小さな紙包みを取り出した。 「社内では、上層部しか存在を知らない薬だ。顧客にも提供はしていない。当然、在庫はまだある」  そう言いながら、社長は紙包みをアルツに向けて放った。      *** 「それにしても、虚しいものだな」  霧牧は、ぼそりとつぶやいた。小包を手にした途端に顔を輝かせる青年を、醒めた目で見つめる。  焦りと共に封筒から取り出したのは、一錠の赤い錠薬。アルツは水すらも飲まずに、直接薬を口に放り込んだ。  体内に押し込むようにして飲んだ薬は、しばらくしてからようやく効果を表し始めた。
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