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「物騒な望みだねえ。別に構わないよ。ただし、それは去り際の復讐かい。それとも、今後も会社に居続けるため、腐った上層部を排除するだけ?」
「・・・・・・後者だ」
「なるほど。つまり、社長の暗殺とアリバイ作りが必要、ということだね」
さらりと言ってのけたアルツを、嶺二はぼうっと見つめた。ずいぶんと簡単に言うが、こんな青年一人に可能なのだろうか。いや、恐らく可能なのだろう。なにせ、天使だというのだから。
「手を汚すのは僕がやろう。その代わり君は、僕が指示する時間は、特定の人と外出でもしていてくれないかな」
「俺のアリバイを確定させるためか?そこは、天使の力でなんとかできないのかよ」
「もちろん、周囲の人々の記憶を消すことはできる。けれどあまりにも人間界の自治に深入りしすぎると、調和を乱したってことで神様に怒られてしまうんだ」
嘘くさい言葉に、嶺二は顔をしかめる。しかし意に介さず、アルツは弧を描いている口をより一層つりあげ、ますます笑みを深めた。
「それに、君、自分が無罪になるようにしてほしいとは願っていないだろう?」
「そこまで言わなきゃいけなかったのかよ・・・・・・」
嶺二のぼやきに、アルツは笑顔でうなずいた。
「そう。でもね、いいコネがある。手榴弾でも拳銃でも毒薬でも、簡単に手に入るんだ。たったひとりの人間をこの世から消すなんて、僕の持つ権力を使えばあっという間だよ」
どこか不気味にも思えるその言葉は、しかし、嶺二にとっては思っても見なかった福音でもあったのだ。
疲労と睡魔で霞がかっていた脳が、はっきりと覚醒するのが分かった。
ためらいも戸惑いも、心中の否定する意見は全部飲み込んで、嶺二は大きく頷く。
「よろしくお願いします。あのイカれた会社に──正しい薬を与えて腫瘍を取り除き、治してほしい」
「承知した。その願い、叶えよう」
薄っすらと、天使が微笑んだ。
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