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Scene2
どうやって家まで帰ったのか、覚えていなかった。再び意識を取り戻したときは、既に1LDKのアパートの一室で布団をかぶせられていた。
一ヶ月ぶりの我が家だと気づくのに、しばらく時間を要した。気がつくやいなや、嶺二は勢いよく起き上がった。朝日が、室内を乳白色に染めている。
昨夜のアルツとかいう男が、ここまで運びでもしてくれたのだろうか。
埃の積もった床をまさぐると、財布とスマホが手に触れた。金が抜きとられたり、勝手にロックを解除されたような形跡は、いっさいなかった。
「おいおい、まさか物も盗らずに家まで送ってきたのか?お人好しだな」
床の埃を払いつつ苦笑する。ポケットに手を入れると、キーケースの鍵が軽やかな音をたてた。キーケースにも、開けられた痕跡はない。
「・・・・・・やっぱり、天使なのか」
まだ掠れる声で、嶺二はささやいた。いくら安くてボロい社員寮とはいえ、鍵を使わずに入ることはできまい。
突如として、視界の隅に、鮮やかな青色が飛び込んできた。ずいぶんと昔に買った付箋だった。
『一週間後、0時に決行』
ネオンライトブルーの付箋に書き連ねられているのは、見たことのない筆致だった。即座に、アルツが書いたものだと察する。
火を放つのは、7日後の真夜中だ。その時間に、確実なアリバイを作っておけということだろう。
「ああ、もう行かないと。社長にどやされる」
毎日の口癖をまたも呟きながら、嶺二は首元に手を伸ばした。慣れた手付きでネクタイを締め直し、荷物をまとめる。そして靴を履くと、玄関の扉に手を伸ばした。
社員寮の廊下から見える景色は、今日も灰色だ。色のついていないモノクロの景色が、目に飛び込んでくる。
この風景を変えるためにも、アルツに頼んだことは、正解だった。
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