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Scene3
玄関が妙に荒れている。整えたはずの靴箱は開け放たれ、奥に溜まっていた土と埃が落ちていた。さらに廊下に視線を向けると、土埃がわずかにに点々と残り、家の中へと続いている。
目を凝らせば、一番奥の部屋の扉が数センチばかり空いているのが見えた。
「おい、待てよ・・・・・・嘘だろ」
誰かが家の中に勝手に入ったことは明白だった。まだ出てきてもいないようだ。空き巣なら、現行犯逮捕だろう。しかし、今は自分にも知られたくない事情がある。
無闇に警察を呼ぶことなどできない。
嶺二は靴を脱ぎ、忍び足で部屋の方へと歩を進めた。そっと覗いてみると、恐れたことが起きていた。
高級スーツを着た後ろ姿が、金庫に覆いかぶさっていた。紙をめくる音が室内に響いている。
厳重に隠していた小型金庫の扉を、侵入者は開けていた。もちろん、大事な情報のほとんどは頭の中に叩き込んである。
しかしそれ以外にどうしても書面化しなくてはならないデータだけは、金庫の中に閉まってあった。
「何やってるんだよ、お前」
低い声で呼びかけると、彼は──アルツは、ゆっくりと振り向いた。
その顔は、いっさい笑っていない。感情のない両目が、虚ろにこちらを見ていた。だが、嶺二も同様に笑うことなく、手にしたナイフを振り上げた。
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