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最初の一撃は、躱された。スーツ姿のくせに無駄に動きが素早い。再び刃物を構えるよりはやく、アルツは嶺二の足に蹴りを叩き込み、仰向けに倒れた上に馬乗りになった。
「まさかと思って家の中を確認してみたら、ちゃんと紙まで揃ってるじゃん。とは言え、情報の大半は頭の中か。まあいい、これで余罪も追加される」
吐き捨てるようにアルツが言った。涼しい目だ。
裏切り者の目を、彼は嶺二に向けた。
書類を持っていない方の手が嶺二の首を絞めていた。息の根は止まらずとも、自然に頭に血は登る。喉にたまる苦しさを吐くように、嶺二は喚き散らした。
「ふざけんなよこのイカレ野郎。発案したのは俺でも、実行犯はてめえだ。お縄につくのはてめえだけ、ついでに家宅侵入罪もプラスだろうな」
「いいや、違うよ。僕には捕まらない理由がある。僕の分の濡れ衣を着せられたお前だけが、逮捕されるんだ」
こちらのことなど、いっさい気にかける様子のない言葉だった。アルツは書類を睨みつけながら大きく息を吐いた。
「へえ、前職の底辺企業で成り上がって味をしめたか。入った会社の中で出世して、ナンバー2になったらトップに毒を盛って自分が全利益を獲得。でもその後は数ヶ月で社の利益全部食いつぶして、税金も社員の給料すらも自分の懐に、ねえ」
退屈そうな口調で、アルツは続けた。
「前回うまくいったから、今回はちゃんと計画を練って忍び込もうって?どうせ今勤めてる会社だって、ブラック企業だからこそ近づいたんだろ。社長あたりが貯め込んでそうだから、横から掻っ攫おうって魂胆だったんだな。そのためなら、過労さえもいとわないって?」
「うるせえ・・・・・・離せ」
ぺらぺらと喋り続ける彼の手をどかそうと、嶺二はもがいた。しかし意外に力が強く、片手すらも外せない。次第に視界が霞みはじめ、宙に星が舞う。
喉の奥の圧迫感に耐えきれず、やがて嶺二は意識が薄れていくのを感じた。
「警察はもう呼んでる。逮捕されるのはお前だけだ、三流詐欺師」
アルツの冷笑がわずかに耳に届いたのを最後に、嶺二の意識はぷつりと途絶えた。
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