5227人が本棚に入れています
本棚に追加
02 龍の焔
大学生活にも慣れてきた夏休み直前のある日。
いつものように、講義を終え、バイト先の喫茶店に出勤すると、
いつものフロアなのに、流れている空気が違う事に気がついた。
その原因は、カウンターに座る、オールブラックの男性。
この男性が放つオーラが他を圧倒しているのだ。
なんて我の強い…。
なんて考えてたら、
「千鶴ちゃん」
マスターに呼ばれた。
「お疲れ様です」
「千鶴ちゃん、こいつ赤崎龍二、俺の同級生。腐れ縁なんだ」
「そうですか。いらっしゃいませ」
千鶴は、ぺこりと頭を下げ、
龍二にテンプレの挨拶をした。
「どうも」
翼から紹介された龍二は、身体ごと千鶴に振り返った。
「…」
龍二に見据えられると、途端に千鶴は動けなくなった。
端正な顔立ち、すらりとした体にブラックスーツ、
組んだ指が、男性にしてはとても綺麗で、
カウンターにもたれかかって、足を組み座っている姿が、
何とも様になっていて、
格好いいなぁ…
そう思った。
いつもならそんなことは考えない。
そもそも関わらないようにしていたから。
まして男性なら尚更だ。
それなのに、この赤崎龍二に関しては、
思考がぐるぐると駆け回っている。
今日の自分はどこかおかしい。
龍二の視線に、千鶴の視線が絡む。
龍二の鋭く美しい瞳から、千鶴は、視線を逸らす事ができなくなった。
さっきから心臓がうるさくて仕方がない。
…どうしたんだろう。何かヘン…
今までこんなに心が動いた事はなかった。
それがこの赤崎龍二という男に関しては、
自分の意志とは関係なく、心が関わろうとしている。
千鶴は自分の心の機微に戸惑っていた。
今まで他人に興味を持ったことがなかった千鶴が、
初めて興味を持った他人。
龍二に会った瞬間に、惹かれていたということに、
千鶴はまだ、気づいていなかった。
最初のコメントを投稿しよう!